俺の地元は一年の半分以上が雪に覆われた所で、娯楽の少ない町だ。
噂はすぐに広まるし、会う人会う人みんな知り合いみたいなもんで、それが良かったり、そうじゃなかったり…。
何となくだけど一生ここで過ごしてくんだろうなって思ってた。
「俺、ここ出るよ…」
この言葉に一番驚いていたのは俺かもしれない。
親も友達も「いつかそういう日が来ると思ってた」と当然のように俺を送り出した。
目的なんてない。
ただ、この町に…みんなの笑顔に、辛くなって逃げ出したんだ…。
みんなそれを知ってても俺を見る目は変わらなかった。
だから逃げたんだ…。
「今日から入った剛です、よろしくお願いします!」
田舎を出て部屋が見つかるまで友人の家に世話になる事になった俺は、バイトでホストを始めた。
バイトなら他にもあったんだけど、田舎と違ってこの街は何かと金がかかる。
一週間コンビニでバイトしても友人の家を出れるのはいつになるか分からない。
ホストに関しては全くの素人だけど、人見知りも無い方だし友人を作るのも得意だ。
今はとにかく金が欲しくてホストという職業を選んだが、やるからにはきっちりやりたいと思っていた。
「世莉、新人の剛だ」
「どーも」
店長に声を掛けられた世莉と言う人は見るからに派手な男で、鬱陶しげに俺をチラリと見てすぐに携帯に目線を戻した。
「世莉はうちのナンバーワンだ。剛も世話になる事があるだろうから、しっかりやるようにな」
「はい」
更衣室…という場所なんだろう。
紹介された世莉さんの他に、数名のホストが着替えやメールなんかをしている。
(何か、ギスギスしてる…)
俺の思ってるホストクラブは華やかで、みんなそれぞれ苦労はあるだろうけど仲間同士楽しくやってるものだと思ってた。
でも、今この場にいる人達は自分以外はまるで関心ないみたいだ。挨拶もそこそこにそれぞれ自分の事をやっている。
ホストというのはこういう世界なんだろうか…。
「あ、そういえば」
背中を向けてここを出ようとしていた店長が、思い出したように振り返る。
「世莉、今日から剛の教育係をやってくれ」
「はあ!?何でオレが!」
「オーナーからの指示だ。お前もここらで初心にかえるようにとの事だ」
「冗談じゃない!オレはこの店のナンバーワンだ、何で新人の面倒なんか見なきゃいけないんだよ!」
「聞けなければ辞めろとさ」
「ぐっ…マジかよ…!」
ドンとロッカーに蹴りをする世莉さんは、ジロリと俺を見て露骨に舌打ちをした。
「絶対にオレの邪魔だけはすんなよ…」
「……」
この時に俺が感じた事は二つ。
バイトする店を間違えた事と、この人が先輩じゃなかったら挨拶の時点でぶん殴ってたという事だ。
(面倒くせぇな…)
それでも、のこのこと地元に帰る訳にはいかない。
ここはグッと我慢だと自分に言い聞かせて、俺のホスト生活が始まった。