ホストクラブ短編・京介世莉 | ナノ



耳元に愛をそそぐ


昨日から度々起こる耳鳴りに眉間を寄せていると、ファッション雑誌を読んでいた世莉さんが顔を上げた。

「どうしたんだ?」

「昨日から耳鳴りが止まないんです。気になって…」

「疲れてんじゃねぇのか?」

「そうなんでしょうか?」

徐々に引いていく耳鳴りに解放されて、はぁ…と息を吐く。

「大丈夫か?」

雑誌を閉じて俺の顔を覗き込む世莉さんに「大丈夫ですよ」と返す。
すると世莉さんは顎に手を添え考え込むようにした後、ソファーに腰を下ろした。

「よし、来い!」

「はい?」

ぱんぱん、と膝を叩いて両手を広げる世莉さんに状況が良く分からず首を傾げる。

「耳ん中見てやる、頭乗せろ」

「えっ…それは…」

とても嬉しいが、恥ずかしい。
自分の耳の中を見てもらうなんて、子供の時に母親にしてもらった以来で少し戸惑ってしまう。

「何だよ、いいから来いって」

「で、では、失礼します」

言われるままソファーの上に横になり、世莉さんの膝に頭を乗せる。

若干硬さがある辺り、やはり男性なのだと感じてしまう。
それでも誰かに膝枕をしてもらう恥ずかしさはあって徐々に顔が熱くなっていく中、世莉さんが突然おかしなことをし始めた。

「いらっしゃいませ〜、お掃除させていただく世莉でっす」

「――なっ…!?」

一体何事かと驚いて顔を見上げると、そこには見事なまでの営業スマイルをした世莉さんがいた。

「何の真似ですか…?」

「あ〜?知らねぇの?そういう店あんじゃん、耳掃除のさ」

「世莉さん、それは…」

別のお店なのでは?と思ったが、あえて黙っておくことにした。
理由はもう少しこの姿が見たいからだ。

「今日はどうされましたかぁ?」

「え?」

世莉さん、病院の診察じゃないんですから…とは言えなかったので、素直に「耳鳴りがします」と答える。
普段抜けている訳じゃないのに、時々こういう事をするから可愛い。
つい笑ってしまいそうになるのを堪え、大人しく身を任せた。

「んー、どれどれ」

世莉さんの手が俺の耳朶を軽く引っ張って、中を覗いてるかと思うと恥ずかしくなる。
顔を近付けてるせいで世莉さんの長い前髪と微かにかかる息がくすぐったい。

「何もないな、綺麗だ」

「そうですか」

「反対は?」

言われてくるりと世莉さんのお腹の方に顔を向ける。

「おい…そうじゃねぇだろ。体の向きを変えろ、見づらい」

「いいじゃないですか」

くすくすと笑い、横になったまま腰に手を回す。
くすぐったそうに腰を捩る世莉さんに、どうにも堪らなくなり回した手をシャツの中に入れた。

「ひぁっ!?て、てめぇ、どこ触ってんだよ!」

「あれ、世莉さん知らないんですか?耳掃除のオプションにはこういうのもあるんですよ?」

行った事がないから実際はどうか分からないが、あながち間違いではないと思う。

「は…っ、もう店は終わり…ッ」

「じゃあ、今からプライベートですね」

ただ体を撫で回してるだけなのに世莉さんは眉を顰め、俺の頭の上で吐息を洩らす。
こんな姿を見て我慢できる筈もなく、俺はこのままの体制でシャツを捲りあげお腹にキスをした。

「ッあ…!ば、馬鹿!つか、くすぐったいし…」

「じゃあ、これは?」

ソファーに肘をついて体を少し起こし、世莉さんの胸の間に吸い付く。
ちゅっちゅっと啄むように胸から首筋、唇へとキスをして、抱き寄せながらソファーの上に押し倒した。

「ん…はぁ、ちょっと待って…」

「何ですか?」

待てと言われて止められる訳もなくシャツのボタンを一つずつ外していくと、抵抗しつつも上半身を露わにされた世莉さんは、わたわたと切羽詰った声で言った。

「し、しねぇって言ったじゃん!」

「えー?そうでしたか?」

「テメェ――んんっ!?」

わざと白を切った口調で言った後、貪るように口付ける。
やや強引に舌を捩じ込み口の中を探るようにすると、世莉さんは鼻に抜けた声を洩らしながら舌を絡めてきた。

「んぅ、ふ、ぁ…ぅ」

本当にこの人は流されやすい。
非常に可愛くもあり、不安な面でもある。

(心配だ…)

キスだけでとろんとした顔をする世莉さんは快楽に弱い…こうして俺の独占欲と嫉妬深さが増していく事を分かっていないのだろう。

すっかり形を変え芯を持った中心をズボンの上から擦ると、物足りなそうに腰を揺らす。
直に触ってほしいというのは見るからに分かるのだが、こう淫猥だと意地悪をしたくなる。

「はぁ、っ…京介…」

「はい?」

「じっ、じれったいって…!」

決して「触ってほしい」とは言わないのを分かっているだけに、あえて何も言わずに焦らしていく。
手だけを淡々と動かして時々キスをすると、世莉さんの涙交じりの瞳と視線が合った。

「辛そうですね…どうしてほしいですか?」

「ぅあ…バカじゃねぇの…」

(強情…)

世莉さんの口から「バカじゃねぇの」が出る時は大体、恥ずかしがってる時か言葉が見つからない時だ。
そんな所も可愛いのだが、もう少し素直になってほしいと思うのは俺の我儘なんだろうか。

「そうですか、じゃあ…さっきのお礼に今度は俺が世莉さんの耳を見てあげますね」

「なっ――ひぁっ!?」

耳朶にかぷっとかぶりき耳の形をなぞるように舌を這わせていく。
くちゅくちゅと音を立て触発しながら肌蹴た胸元に指先を滑らせると、世莉さんの体がビクビクと小刻みに震えた。

「あっ…う、ッ…何が耳を見るだよ…!舐めるな…っ」

「世莉さんは耳だけでそんなに感じるんですか?」

「やぁっ、あ、そこで喋んなって…んんっ…!」

「……」

(ああ、やっぱり心配だ――!)

前々から分かっていた事だが、こんなに敏感で大丈夫なんだろうか…。いつか誰かに襲われないだろうかと心配になる。
紅潮した顔が堪らなく色っぽくて潤んだ瞳が理性を奪っていく中、同じだけ不安が増していく。

(こんな顔、他の人には絶対見せられない…)

もっとこの可愛い顔を見たい…しかし、そう思えば思う程不安が強くなるという矛盾を感じ、俺は心の中で悲鳴を上げた。

「あの、世莉さ…」

「はぁ、んぅ…京介ぇ、もう我慢できない…あっぁ…、触って…っ」

「――!?」

(世莉さん、それは卑怯です!)

そんな事を言われて保っていられる理性なんかある訳もなく、それはもう手際よく世莉さんの衣類を脱がしていった…。







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