それは、ひょんな事から始まった。
「京介ってAVとか見る?」
「え?」
開店前の更衣室で突然剛さんに聞かれた。
何の事だろうと思いつつ、とりあえず当たり障りなく答えてみる。
「そうですね…全く見ないと言う訳ではないですけど、あまり…」
「はは、やっぱ?」
「何ですか、突然」
「実はさ知り合いがそういう会社に勤めてて、タダでやるからって昨日大量にもらったんだよ。京介見るならどうかと思って」
「すみません、俺は…」
「だよなぁ。んじゃ、世莉さんにでも聞いてみっかな」
「!?」
パタンとロッカーを閉め、更衣室を出ようとする剛さんの肩を掴んで引き止める。
「待ってください、やっぱり俺にください!」
「お、おう…」
若干引かれてはいるが仕方がない。
そう、仕方ない事なんだ。
それは世莉さんが元々ノーマルだからで、もしそういうのを見て一人でされたら凄く嫌だからだ。
(阻止しなければ…!)
と、いう事で。
世莉さんに決してこの事がバレないよう上手く誤魔化し、閉店後剛さんの部屋にお邪魔する事にした。
「凄い量ですね…」
予想以上に大量のAVに目をぱちくりさせてしまう。
「な、邪魔だろ?せめてデータでくれたら良かったのにさ」
言いながら剛さんはパッケージに入ったAVを手に取る。
俺も一つ手に取って見てみると、久しぶりの女性の裸に世莉さんが過った。
(すみません、これは浮気ではありませんので…)
心の中で謝罪し、とりあえず無難そうなのを探してみる事にした。
「なあ、これなんかどうだ?人妻とか」
「……」
何故、人妻なんだろうと思いながらパッケージを見てみると、どこか派手な母親を思い出させる女優の姿に、目を逸らして剛さんに返した。
「うっ…すみません、他のにしてください…」
「あれ、駄目だった?お前って人妻とか熟女とかイケそうだと思ったのに」
「何でですか、普通のでお願いします…」
「普通って…せめてタイプとかさー」
「タイプですか?そうですね…見た目は派手でプライドが高くツンツンしてるのに、そういう場になると途端に逆らえなくなる感じですかね」
「具体的すぎんだろ。はは、もしかして胸は小さい方がいいとか?」
「ええ…むしろ無くていいです」
「え?」
「いえ、こちらの話です」
ああ…何故俺はこんな事をしてるんだろう。
正直に言えば俺だって今は世莉さんを愛してるが元はノンケだし、女性と経験がない訳ではない。
だからと言って今は世莉さん以外の人の裸など見たくないんだ…。
(しかし、これらが世莉さんの手に渡る事だけは阻止しなければ!)
「京介、これはどう……ん!?」
剛さんは手に取ったパッケージを俺に渡しかけて、再度裏側をマジマジと見ながら言った。
「この子、世莉さんに似てねぇ?」
「――!?」
世莉さんと言われて慌てて覗き込むと、確かに若干だが似てるような気がした。
(そんな馬鹿な…)
この世に二つとない、あの可愛らしい世莉さんに似てる人が…それも女性でいるなんて有り得ない。
そんな俺を余所に剛さんは「へー」と感心したように声を上げニヤリと笑った。
「ちょっと流してみっか」
笑いながらディスクをセットする剛さんを逞しく思い、それと同時に「万が一似てたらすぐさまディスクを破壊しよう」と心の中で決意した。