アナタはQueen | ナノ




こんな事、いつまで続ける気だ?

何度も思っては繰り返している。
寂しくて心を支えてほしくてやってきた京介の部屋の前で、オレはインターホンを押せずにいた。

顔を見て安心したい。
寂しい気持ちを悟ってほしい。
大丈夫だって抱き締めてほしい。

…こんな甘えた心が仕事も京介との関係も曖昧にしてるのは分かってる。
それでも会わずにいられない自分が何とも情けなくて惨めだった。

――お前…ナンバーワンから落ちたのに、よくQueenにいられるな

いつか…誰かに言われるような気がしてた。

分かってたんだ、プライドの高い世莉がナンバーワンから落ちてQueenに居続けられる筈がない。それでもQueenに居る理由は、オレを抜いたのが京介だったからだ。
ナンバーワンを奪われて感じた怒り、嫉妬、羞恥どれをとっても惨めで情けない感情は、今ではどれも曖昧なものになってしまった。

汐音を抜こうとナンバーワンを目指した時は何でもできた。
ナンバーワンになる事しか頭になかったし、何より世莉というホストとしてのプロ意識を強く持っていたように思う。けど最近のオレは名前ばかりで中身のない接客ばかりだ…挙句、今日のように指摘されて、まともに返せる言葉もない。

正直、自信をなくしてしまった…。

オレが“世莉”でいようとすればするほど、自分の望みが何か分からなくなっている気がした。

(しっかりしろ…!)

「……っ」

小さなプライドで「どうか出ませんように」と願いながら押したインターホン。
暫くしても反応がない事にホッとしつつも、残念に思うオレがいた。

(アフターか…?)

京介だっていつも決まった時間に帰宅してる訳じゃない。お客さんの付き合いもあるし、プライベートだってあるだろう。
それなのにオレの事を待っていてくれてるんじゃないかという期待をしてしまった。

(馬鹿みてぇ…)

この所、仕事でもプライベートでもずっと一緒だったから、会えないのが少し寂しいと思ってるだけだ。
ただ、それだけの事なのに何でこんなに泣きそうになるんだろう。

「京介…」

――会いたい…。

素直にそう伝えられたら、何かが変われるって分かってるのに…。

いつまで経っても臆病なままのオレは、京介を待つことなく自分の部屋に帰っていった。




部屋に帰ってきた後、シャワーを浴びて久々に自分のベッドに横になった。
京介の部屋に慣れてしまったのか、使い慣れてるはずのベッドは妙に冷たくて硬くて広く感じる。
体は怠くて疲れているのに、思考が妙にハッキリしていてなかなか眠りにつけなかった。

夕方に起きて携帯を確認すると、京介からメールが入っていた。
『Stellaはどうですか?』たったそれだけ。シンプルでアイツらしいメールなのに、オレは怒りと寂しさを感じずにはいられなかった。

もっと他に聞く事はないのか?
寂しいって思わないのか?
会いたくないのか?

そんな自分勝手な感情が胸の中に渦巻いて、どんどん色を変えて濃くなっていく…。
このままだとオレはどうなってしまうんだろう。
コントロールのできない感情に振り回されて、その先の自分がどんな風になってしまうのかも分からない。

未来が想像できない怖さを、初めて感じたような気がした。





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