アナタはQueen | ナノ




「で、話というのは?」

汐音は気持ちを切り替えるようにニコリと笑って言う。それに対して悠聖さんは、やっと話を始めた。

Stella(ステラ)のオープンは今日が初日な為、お客さんの入り具合や流れは予想がつかないという。ホストは悠聖さんが引き抜きやスカウトで集めた経験者ばかりで、逆にそれが心配だと悠聖さんは言った。

「経験者って事は意地もプライドも一緒に持ってきちゃうわけよ。みーんなお前らみたいな奴ってコト」

「……」

「……」

言い方は悪いが理解はできる。
主に引き抜きされた方は金を積まれて来てるのだがら、前の店の方針がStellaと合うかどうか難しい所だろう。素直に聞いてくれるタイプが悠聖さんの店に集まるとは到底思えない。

「だからまとめ役が欲しいんだけど、お前らのどっちかにやってもらいたいんだわ」

「それをやるメリットは?」

汐音がやや面倒くさそうに言う。
オレは長くStellaに居るつもりはないし、汐音の場合は恐らく「何で人の事まで気に掛けなきゃいけないんだ」と言ったところだろう。汐音は自分が一番のナルシストな奴だから、他人の面倒を見るのが億劫なんだと思う。

「メリットなんてないよ、お前らが断れば他に頼むだけだ。ただ…」

「ただ…?」

「お前ら、ちゃんとそいつのいう事聞けるの?俺が選んだまとめ役がお前らより年下で、ホスト経験のないド素人だとしても指示に従えるか?」

「…ッ」

「それは…」

嫌だ…と、喉まで出かけて飲み込んだ。言ってしまえば「じゃあ、世莉がやれ」と言われるのが分かってるからだ。汐音も同じようで何も言わない。

「何だぁ?やる気がないなら断れよ。時間の無駄だ」

悠聖さんは見た目はオレらと然程変わらないが、時々見せる上司の顔は結構怖い。それはオーナーとして申し分のない貫禄だ。それに負けた訳ではないだろうが、汐音は観念したように溜息を吐いて言った。

「分かった。今回は俺が引き受けよう」

「いいのかよ」

「お前のいう事なんて、ド素人のホスト以上に聞けそうにないからな」

「くっ…てめぇは…!」

オレだって汐音のいう事を大人しく聞ける気はしない。それでもこの役目は汐音がやるべきだと思った。
そもそも短い間しかいないオレに、この話をする悠聖さんの考えが分からなかった。

「じゃ、まとめ役は汐音に任せるな。ああ、あと――」




開店までの少しの間、オレはこの店での“働き方”を考えていた。

『ああ、あと一つ。暫くの間、ウチでは永久指名制をやらない事にするから』

先程、悠聖さんに言われた言葉だ。

永久指名制は一度ホストを指名してしまうとそれ以降は他のホストを指名することができない。その制度があるからこそ、ホスト同士の揉め事を避けることができる。
永久指名制じゃないという事は客は気分でホストを指名することができる訳だ。つまり、どれだけ客の心を掴んでおけるかが勝負という事だろう。
今日はオレを指名しても、明日は違うホストを指名する事もある。そういうシステムはオレには経験がないから正直、戸惑っていた。

そうなると問題は自分の客を呼ぶべきかという事だ。Queenではオレ以外指名できない子達が、ここで違うホストに流れるという事もある。
下手に呼んでQueenに来なくなっても困るのはオレだ。それに新規の客にどれくらいのペースで着かせてもらえるのかもわからない。
指名がないままヘルプに回るのなんて絶対にご免だった。

(いや…)

オレは何を考えてるんだ?
自分の客を繋ぎとめられないでホストなんかやってられる訳がないのに…。

頭ではこの状況を理解してるつもりでも、心は不安で堪らなかった。





店がオープンする前にホスト同士の顔合わせがあった。

どいつもこいつもホストしてますって面して、派手な髪に着崩したスーツ。ごついアクセがまた品がない。個人的には派手なものは嫌いじゃないし人の格好にいちいち文句を言うつもりはないが、本当にこれでいいのかと心配になる。
オレもQueenでは派手な方だけど、この店の連中に比べれば十分落ち着いてる。まあ、悠聖さん本人も派手な人だから似た奴が集まっただけなのかもしれないが…。

(だが、油断はできねぇ)

そうだ、ここに居る連中の誰にも負ける訳にはいかない。
Queenの世莉として、恥ずかしくない仕事をしなければ――






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