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「コータ…こっち向いて」

「何?」

言われるまま顔を向けると、俊はマジマジと俺を見た後とんでもない事を言ってきた。

「キスしてみても良い?」

「はぁ!?」

「いや、マジで」

「お前なぁ…あんまりふざけてると、俺もいい加減怒るぞ」

もう呆れるしかない。少しだけ動揺する気持ちを隠して、何事もなかったように調理を続ける俺に俊はやや強引に肩を掴んできた。

「こっち向けよ…」

「――っ…な…なん…」

思わず、ドキッとしてしまった。
今まで自分に向けられた事のない声色や、男の色気を感じさせる表情…。

(なんつー顔で俺を見るんだよ!)

鋭い切れ長の目を色っぽく細め、形の良い唇をぺろり舐める舌。
俊の本気は感じるが、一体どういう理由でキスをしたがっているのか微塵も分からなかった。

「なあ…友達同士ではキスしないんだぞ?そして俺は男だ」

「は?当たり前だろ?」

「じゃ、何で…」

「どんな感じかなって。この間、兄貴とヤッてんの見て気になったから」

「そんな理由で…やめとけよ、良い思いはしないって」

「はー…面倒くせぇな」

「――んっう!?」

ぐいっと腰を抱き寄せられて、抵抗する間もなくキスされた。
反射的に体を押し返そうとすると、それ以上の力で抱き締め返される。

「んんーっ、ぁう、ちょ…んぅ!」

兄弟なのにセトとは全く違った強引なキス。口腔に押し入ってきた舌が戸惑う舌を器用に絡め取り、煙草の味が口の中に広がってその匂いにゾクッとした。


(一体、何なんだ…!?)

興味があるから。たったそれだけの理由で同性にキスできるものなんだろうか。
だからといってそこに恋愛感情があるようにも思えないし、俊が一体何を考えてるのか分からなかった。

「ん…は…っ、お前…」

漸く解放されたキスの後、思いっきり俊を睨みつける。内心、心臓バクバクでどんな顔を向けて良いのか分からないからだ。
すると俊は意味が分からないといったように首を傾げて、はっと鼻で笑った。

「コータ、あんまキス上手くねぇな。でも、思ったより悪くねぇよ」

「……」

言いたい事は山のようにあるが気持ちを落ち着かせようと深く息を吐いて、ゆっくりと口を開いた。

「はーっ…。俊…暫く無視されるのと、今日の夕飯ピーマンだけなの、どっちがいい?」

「はぁ?んなのどっちも嫌に決まってんだろ」

「そーか、両方が良いのか。分かった、今から話しかけても無視してやるから覚悟しろ」

「ピーマンでいいよ…」

本当は、こんな会話できる余裕なんかない。
それでも気まずくなったり嫌な雰囲気になりたくなくて精一杯、俊との関係を保とうとした。

(やばい…ドキドキする…)

当たり前だ。どういう理由であれ、友達に…それも男にキスされて動揺しない訳がない。
俊はというと、全く持って普段通りだ。まるでドキドキしたり戸惑ってる方が可笑しいみたいで、こういう所が俊らしくて嫌になる。

「何だよ、キスくらいで…」

「じゃあ、お前は興味があるからという理由で、荒木とキスできるか?」

「…キモイ事言うんじゃねぇよ」

ほら、全く持って意味が分からない。
男同士で体の関係がある事に興味があるなら、別に俺じゃなくたって良いのに。

遊ばれてる訳でも、嫌がらせされてる訳でもない。だからといって特別な感情は感じない。

(謎すぎる…)

でも…嫌じゃなかったのは、俊が友人として大事だからなんだと思っていた。




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