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俺と俊は午後の授業をとっていないので、二人でスーパーに寄ってからマンションに帰った。

夕飯の支度をする俺の横をふと通った俊は、まな板の上の食材にギョッとしたように声を上げた。

「げっ、何でピーマン…」

「お前が昼に残したからだろ。固いとか言うから柔らかくするし、苦くないからちゃんと食えよ」

「…分かったよ」

俊は冷蔵庫からペットボトルのコーラを取り出して、それを飲みながら換気扇の下で煙草を吸う。
煙草ならセトがどこで吸っても良い許可を出してるから換気扇の下で吸わなくても良いのに、こういう時の俊は俺の事を気に掛けてるのだと、何となくそう感じていた。
深い意味はない。ただ一人で居るのが退屈だからとか、たまたまキッチンに来たからとかそういう感じで傍から離れないだけなんだと思う。

「……」

「……」

俊が料理をする俺の手をジッと見ながら、ただ無言で煙草の煙を吐く。その様子に俺はクスクスと笑って俊に言った。

「暇なら手伝って」

「ああ。分かった」

率先してはしないけど、お願すればこうして手伝いをしてくれる。
根は本当に悪い奴じゃないし、気も合うから一緒に居ると本当に楽なんだ。

「あのさ、沢村サンの話しだけど…。もしかしたらセリの店にいるんじゃねぇかなと思って…」

「セリさんって、ホストだろ?」

「ああ…まあ、必要ならセリに聞いても良いけど」

「いや、いいだろ。陽向も部屋探してるだけだし」

「だな」

(気遣ってくれたんだな)

俊は優しいし、友達思いだ。ただ口が悪いから伝わりにくいだけで、今だってきっと陽向の事を気に掛けて俺に話してくれたんだと思う。
こういう俊をもっとみんなに知ってもらえたら、俺もすごく嬉しいのに。

「そういえばセトから連絡来た?俺の所にはきてないんだけど」

「くるわけねぇだろ。用事があんだったらコータにするって」

「そんな事ないだろ、俊は弟なんだから」

「でもコータはセックスしてんじゃん」

「俊…」

やっぱり思考はそこにいくのかと、刻んだピーマンに向かってため息を吐く。
そんな俊は自分の言った事を気にもせず作業を続けている。

「コータさ…何で、兄貴とヤッてんの?」

「は?」

思わず眉間が寄る。

「別に、兄貴じゃなきゃダメってことはないんだろ?」

「あのな、俺だって誰構わずヤル訳じゃないんだ。男はセトしか知らないし…」

「じゃ、好きなの?兄貴の事」

「――っ…」

「え…マジで?」

俊以上に自分の反応に驚いているのは俺の方だった。
俊の言葉に思わず固まってしまったのは、図星だからなんだろう。
好きだという自覚はあるが「まあな」と答えられるくらいには余裕があると思っていただけに、今の自分の態度にはビックリした。

「あー…分かってると思うけど、兄貴はさ…」

「知ってるよ。別に、どうこうしたいって訳じゃないし…」

「……」

セトがだらしないことは知ってるし、体以上の関係になるのは難しいのも分かる。だからこそ自分の感情が“好意”を少しだけ超えてる事に悩むんだ。

絶対に付き合いたい訳じゃない。
でも、傍にいたい。

これって、恋愛感情なんだろうか。
自分が思ってる以上にセトを気にしてる事が分かった今でも、この感情の曖昧さにもどかしく思う。





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