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「おまたせ」

「おう」

バイトが終わり、近くのコンビニで待っていた俊に声を掛ける。
俊は読んでいた本を棚にしまい、レジで煙草を買うと俺と一緒にコンビニを出た。

「あれ、さっきのセリさんって人は?」

「彼氏ん家じゃねぇ?」

「は?彼氏!?」

物凄い爆弾発言のような気がするんだけど、俊が当たり前のように話すから大袈裟にするのも悪いと思い口を閉じる。
すると俊はクスクスと笑いながら俺を見てきて、何故か分からないけどつられて笑ってしまった。

「ってか、セリさんって派手だけど綺麗な人だよなぁ」

「ホストだかんな、みんなあんなモンじゃねぇ?」

「ホスト…すげぇ納得。つかお前、色んな人と知り合いだな」

「セリはバイト先に良く来る客だよ。アイツの男の方が美形じゃねぇかな?背高いし」

「へぇ〜、でも、俊だって美形じゃん」

黙ってれば…と思った事は言わないでおこう。

俊は本当に顔は良いから黙っててもモテるのは分かるんだけど、いつも振られるのは何でだろう。
すぐムキになるのは照れ隠しだからで、それ以外の理由があるとしたら毒舌な事くらいだろうか。
ただ俊は俺に対して“毒舌”ととれる言葉を言ってこない。
俺が気付いてないだけか、一緒に住んでるから俊なりに気を付けてるのかは分からないけど、それだけに俊が頻繁に彼女に振られる理由が俺にはいまいち分からなかった。

「ん?何?」

俊は時々、俺の顔をジッと見る癖があるようだ。
視線を感じて背の高い俊を見上げると、少し生意気な表情で言った。

「コータは可愛いけどな」

「なっ!?嬉しくないから、それ…」

「なーんで、一応褒めてんだけど?」

「うう…微妙」

「ははっ、そういう所とかさ。コータのそういうの、結構好きだ」

好き…同じ言葉なのに全く違った感覚がする。
セトに好きと言われるとドキドキするのに、俊に言われると何だか心が温かくなる感じがした。

兄弟なのに、やっぱり別なんだな。

セトにはセトの魅力があって、俊も同じように別の魅力がある。
そんな二人を近くで見ていて同じ男として憧れる部分もあり、俊に関しては良い友人だなと思う。

「残念だなぁ。俊が女の子だったら、俺達結構上手くいくと思うのに」

「それ逆じゃねぇ?コータが女だろ」

「いやいや、俊ならモデル系の女の子になれるだろうから、俺はそれを自慢するね」

「自分より可愛い彼氏とか微妙〜」

俊は俺の前だと今みたいに結構笑ってくれる。
俺にするみたいに他の人にも同じように接すれば、きっと女の子にも振られないのに…。

(勿体ないな)

仮に俺が女の子で俊と恋人だとしたら、すごく上手くいくような気がする。
気軽に付き合えるし、一緒に居て楽しいだろう。
俊は何気に面倒見も良いし、優しい奴だから、すぐムキになるのさえ気にしなければ凄く良い男だ。

だからこそ俊の良さを知ってるだけに、友人として恋愛も上手くいってほしいと思わずにはいられなかった。

「あ〜、腹減った。帰ったら何食べようかな」

「オレは散々食った。でもコータが何か作るなら食う」

「お前ね、その内太っても知らないからな」

「その辺は大丈夫、オレは太りにくいから」

「くー、生意気だな」

こういう他愛のない会話が今は凄く楽しい。
夜の気配を漂わせた住宅街を歩きながら、俺達はセトのいないマンションへ帰って行った。




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