結局、俊がバイトに行った後二回。
セトは一週間分と、ここぞとばかりにエッチしたがったが何とか上手く逃げ切る事ができた。
そして翌日…。
「お土産買ってくるね。いってきます!」
「いってらっしゃい…」
“真面目で、できる男の瀬戸さん”に変身したセトは、朝から自然の力さえ味方に付けたキラキラした笑顔で部屋を出た。
部屋に残った俺は夜にバイトがあるくらいでそれまでは予定がない。
ひとまず家の事をやろうと洗濯、掃除を始める事にした。
「あ…俊の洗濯物…」
部屋にあるなら今の内に出してほしい。
でも昨日の事があるだけに気まずかったりする…。
昨日、あれから俊は直ぐにバイト行っちゃったし、夜は俺が寝てから帰ってきたみたいだからまだ会ってない。
恐らく俊は昨日の事なんか気にしてないんだろうけど、見られた俺は気にする。
エッチな声は何度か聞かれてはいるけど、それとはまた違った恥ずかしさがある訳だ。
(でも、今日から俊と二人きり…)
いつまでも逃げてる訳にもいかず、小さく息を吐くと俊の部屋の前に立った。
「俊、起きてる?洗濯物あったら出してほしいんだけど」
反応がない。
もう一度声を掛けると「…あぁ…起きてる…」と明らかに寝てた声が返ってきて、そのままドアを開けた。
「おはよ。寝てるのにごめん」
「ん…おぅ…」
煙草の匂いが充満した部屋。俊の匂いだ。
俊はボサボサの寝癖頭を掻きながら大きな欠伸をすると、ジッと俺の顔を見てきた。
「あのさ…」
「ん?」
そこまで言い掛けて「何でもない」と顔を逸らす俊に、もしかしたら昨日の事を気にしてるのかと思った。
(まさか俊が?)
俊は性に関してオープンな性格だし、昨日の反応を見る限り気にしてるとは思えなかっただけに少し驚いた。
でも、誰だって友人のセックスを見れば戸惑うのも無理はない。
こう言っちゃなんだが、俊も人並みにデリケートな部分があったという事だろう。
そう思ったんだけど…。
「エッチの時やっぱ、ちんこ勃つんだ?」
「……」
俊は俊のままだった。
思わず呆れた顔を向けてしまう俺に、俊は「何?」とキョトンとした顔をする。
前々から思ってた事だけど、この瀬戸兄弟は「普通」とは少しズレている。
「昨日のは俺も悪かったけど、そういう事聞くなよ…」
「何で?まあ、リビングでエッチしてるとは思わなかったけど」
「ぐっ…だから…!」
この手の話を俊に言い聞かせるのは難しい。
手は早いくせに鈍感だから「何で?」「どうして?」と普通なら有り得ないくらい恥ずかしい事を平気で口にしたりする。
(分かってたけど…)
もう少し繊細な気持ちを持ってほしいと思うのは俺の我が儘なんだろうか…。
「あのな、ちんこも立つし、エッチも気持ちいい!これでいいか!」
「へー…男同士でもそうなんだ。はは、コータ気持ちよさそうだもんな」
「――ッ!」
この変態野郎が…!と普通なら思うだろう。
でも俊には悪気がない。それだけに安易に暴言が吐けないのが辛い所だ。
「いいから、洗濯物だせよ!」
「へいへい」
これ以上ここに居るのが辛くなり、俊の洗濯物を手に持って脱衣所に向かった。
「はあ…」
ごうんごうんと回る洗濯機に手をつき、深い溜め息を吐く。
(朝から疲れた…)
別に怒るようなことじゃない。そう、怒る事じゃないんだ。
ただ、俺が持ってる価値観とあまりにもズレてて、この手の話ではいつも戸惑ってしまう。
初めて俊に会った時は「エッチ」とか「セックス」って単語だけで動揺してたような気がする。
それが今ではエッチな声を聞かれる事にも若干慣れを感じ、挙句見られるという羞恥プレイの連発だ。
人として、ズレ始めてるような気がする。
でもセトや俊がわざと困らせようとして言ってる訳じゃない事も分かってる。
二人とも良い奴だし、一緒に居て楽しい。
だから「こういう奴」として俺も付き合ってられるんだ。
けど、やっぱり戸惑ってしまうのも確かで…それは俺がセトに恋愛感情を持ってるのが大きいような気がする。
前までは「バカだな〜」って笑ってられたものが、今は後ろめたい気持ちにさえなってしまうんだ。
人を好きになって喜べないなんて、自分の恋愛は何て悲しいものばかりなんだろう。
今だってセトを好きだという自覚はあるけど、最初から実らないと思ってるだけに周りが見えないほど恋してるとは言えない。
それに、もし付き合えたとしてもエッチばっかしてるだろうし、女の子みたいに外でイチャイチャできる訳じゃない。
人の目を気にして恋愛しなきゃいけないなんて、楽しい訳がないんだ。
なのにセトに触れる度、好きになっていく…。
このままで良い訳がないのに、なあなあに過ごしてしまうのは変化が怖いからだ。
何となく茫然と過ごしてしまう日々に答えは見つかるんだろうか…そんな事を思いながら、脱衣所を後にした。