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恋愛フィロソフィア ver.赤司




 敦は僕の言うことはなんでも聞く。
 それは彼がそこまでバスケを愛していなかったことと、中学時代に散々躾たことに起因する。
 彼を甘やかしてどろどろにして、お菓子よりも「オイシイモノ」を与えてやったから、彼は僕に対して従順だ。
 だからこそ、IH決勝出るな、なんて無茶苦茶な命令を聞いて――最も、僕の言うことは絶対なのだから無茶苦茶なんて表現自体おかしいのだけれど――こうして僕とだらしないことに興じている。
 扉一枚隔てたところでは他校が試合している、この会場で。


「ンッ、は」
「赤ちん……触ってもいい?」
「ァ……ッは、いいよ。どこを触りたい?」
「んっとー。髪」
 キスの合間に訪ねてくる敦の瞳はまっすぐだ。疑うことを知らない。
 以前言ったことを忠実に守り、彼は絶対に僕の体を好き勝手にはしない。無駄にある体格差を駆使すれば、僕を無茶苦茶に犯すことだってできるだろうに、敦は絶対にそれをしなかった。
 僕の教育の賜物だ。
 すりすりと長い指が僕の短い髪を梳く。
「脱がしてもいい?」
「ドウゾ?」
 指が首筋をくすぐって、前へと流れ、ジャージを左右に割る。そのまま中に着ていたTシャツをたくし上げて、そこに顔を近づける。
「おっぱい舐めたい」
「ン、」
 頷いてやれば、彼はぢゅ、と音を立てて僕の乳首を吸った。肌寒さと、会場内でこんなことしてる背徳感とでわずかに尖っていたそれは、敦の肉に包まれてとたんに強度を増した。
 あま噛みされて、背筋をぞくぞくしたものが這い上がる。
「んぅ……はっ、ふ」
 散々唇で愛撫したかと思えば、放って置かれたもう片方にしゃぶりつく。やっと触れてもらえた片側は嬉しそうだったけれど、放って置かれた乳首は唾液で濡れてなんだかひどくいやらしく、そうしてもどかしかった。
「敦」
「ん?」
 目線で強請れば、敦の長い指があいた乳首をつまみ、捏ねる。時折爪を立てたり、触れるか触れないかの強さでなぞられて甘い声が漏れた。
「赤ちん、気持ちいい?」
「悪く、は、ない」
「そっかぁ、よかった」
 笑う敦にキスされる。身長差のせいでほぼ真上を向かなければならないのが気に入らない。ドス、と胸元を殴ってみたら腰に手を回されて持ち上げられた。そういうことじゃない!
「あつ、し……こ、ら……」
「ん、んむー」
「あ、ァ、……ふ、んん……っ」
 地に足がつかないのが気に食わない。抱き上げられても結局上を向かなければならないのが気に食わない。抱き上げられた事で下腹にあたる敦の熱は……まぁいいとしても、とにかく色々気に食わない。
「ん、……ッ!」
「痛ッ……」
 口内を舐め回す舌を思い切り噛んでやれば、敦はびくりと肩をすくませて目だけでお伺いを立たてくる。
 そのままキツくにらめば肩を落として、唇を離し、そっと僕を下ろした。
「ごめんなさい」
「僕は好き勝手されるのは嫌いだ」
「うん、ごめんね赤ちん」
 素直に謝罪の言葉を口にして、敦はめいっぱい身体をかがめて僕に唇を落とす。それを受け入れてやりながら、そっと彼の下肢に手を伸ばす。
「そろそろ進まないと全部できずに終わるぞ?」
「あっ……う」
 見上げれば、敦はなにやら逡巡しているようだった。
「なんだ」
「挿れても、……いいの? 赤ちん」
 やっと口にした言葉に、なんだそんなことかと嘆息する。
「敦が挿れなくてもいいなら、僕はそれはそれで構わないよ?」
「やだ、挿れたい……」
「そ。……久々、なん、だから……ちゃんと慣らせよ」
「うん」
 許可を出せば、彼は心底嬉しそうに微笑んだ。でかい犬みたいだ。いや、犬は駄目だな。あんな意味不明な生き物に準えられたら敦がかわいそうだ。
「赤ちんの、舐める、よ。だから、指、舐めて」
「ん」
 指を差し出されたから、ねっとりと舌を這わしてやる。長い指を奥までくわえ込み、舌を絡め、指の股まで舐めしゃぶる。性器にするようにたっぷりと唾液で濡らしてやれば、敦ははぁ、と熱っぽい息を漏らした。
「触るねぇ」
「……ッ」
 ジャージを下着を同時にずり下ろして、彼が僕の前に跪く。濡れた指が僕の後口に触れる。ぐ、と押し込められて、知れず詰まった声が漏れた。
「ン……」
 敦と僕の体格差は、悔しいがかなりある。元々入れるところじゃないそこが、彼を受け入れる為には念入りなマッサージが必要だった。
 以前まぁいいかと高をくくってやってみたら、後日泣きを見たことがある。
「あつ、し」
「なぁに?」
 震えて縮こまっている僕自身に触れようとしていた敦は、目線だけで僕にお伺いを立ててくる。痛い? つらい? それとも、気持ちいい?
 それら全てを黙殺して、目を閉じながら言う。
「ジャージ、上、右」
「?」
「使え」
「!」
 単語だけで伝えれば、その意図を正確に理解した彼が、一旦指を引き抜いて僕のジャージを探る。
「赤ちん、なんでこんなの持ち歩いてるの?」
 小さなボトルに入ったローションをまじまじと見て、敦が僕に訪ねる。馬鹿か。仮にも久々に会える恋人と、身体を重ねたいと思わない奴がどこにいるんだ。でもそういった「好意」を見せた事はないので、繕ったうわべだけの言葉で笑う。
「突然……襲われて、裂け、たら、敵わないからな」
 ふふ、と笑えば「そっかぁ」なんて理解したんだかしていないんだかの表情で彼は流す。手のひらにローションを垂らして、人肌に温めたあと、再び僕の後孔に指を差し入れた。
 うん、今度は多少スムーズだ。
「あむ、……ん、んー」
「んぁ、ァ、はっ……」
 後ろを指でこねくり回しながら、彼は今度こそと僕の性器を口に含む。探る指と、直接的刺激と、その後の快感を想像してあっという間に僕の下肢は熱を持った。
「は、ァ、あ……んぅ」
 くしゃり、と彼の長い髪を撫でてやる。彼の熱い舌が、下から上へと棒身を舐めあげ、そのまま傘の下にねっとりと絡みついた。先端を口に銜えられ、鈴口をぐじぐじと尖らせた舌に刺激される。同時に慣れ親しんだ指が僕の内側を拡張するようにぐりぐりと動く。肉襞をかき分けて、尻口からほんの少しの位置にある膨らみを下から押し上げるように刺激する。
「ンッ、んんんー、あ、ァ、ひっ」
 ひっきりなしに声が漏れた。あまり声を漏らすといつ誰に気づかれるかわからないから、必死に唇を噛み締める。
「ンン、ん、ふっ……は」
「イってもいいよぉ? 赤ちん」
「ァ、あ……ふぁ」
 ふるふる、と首を振る。僕の性器は彼に包まれて既に爆発寸前だったけれど、ここでイくのは嫌だった。一度イってしまったら体力の消耗が尋常じゃない。イくのは一度で充分だ。
「抑え、てろ、」
「……?」
「イ、くのは……一度、で、充ぶっ……」
 涙目で訴えれば、敦はわかった、とあいた左手で僕の根元をぎゅっと抑える。自分で指示したこととは言え、痛みにうめき声が出た。
 イけない状態で、何度も何度も竿や裏筋を舌でくすぐられて足が震える。膝が笑えば、一旦僕から口をはなした敦が、自分のジャージと僕のジャージを床に並べて僕を横たえてくれた。
「多分、これで楽だよ」
「は、……ふふ」
 犬のように息を乱しながら笑って頷けば、こめかみに唇が触れる。
「もうちょっと我慢してね、赤ちん」
 床に横たえられた状態で、今度は両足を抱え上げられる。なんとも情けない格好だ。この僕がこんな嬰児みたいな格好。
「ちんこ、自分で、押さえててくれる?」
 ほぐしたいんだぁ、そういう敦に頷いて、両手を自身に伸ばす。そろそろと熱の根元を掴んでみせれば、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃぁ次、二本ね」
 腰の下に膝を押し込むようにして、僕の腰を浮かせた敦が、二本の指を後孔に突き立てる。つぷりと音を立て入ってくる衝撃に、性器を抑える手に力がこもった。
「ン、ン」
 腔内を二本の指が奥へ奥へと進んでいく。腹の中を探られる感覚はいつまで立っても慣れないけれど、その先の快感を思えば耐えられた。
 一本の指で前立腺を刺激しながら、もう片方の指で拡張される。余裕ができたら、もう一本がねじ込まれた。さすがにキツイが、必死に息を吐いて受け入れる。
「そろそろ、いいかなぁ?」
「はっ、は……ひぁ、ァ……ン」
 ぽたぽたと額から汗を垂らし、お伺いを立ててくる彼に頷いて、そっと足を開いてやる。
「来い。ゆっくりな」
「ん」
 辿たどしく取り出した熱を、僕の開ききったそこに押し当てられる。ぐ、と押し込められる感覚に声が漏れる。思わず眉を寄せれば、眉間に唇を落とされた。
 はっは、と荒い息を零しながら、必死に彼を受け入れる。ピリリとした痛みが襲うけれど、それも最初だけだ。一番大きい傘の部分を超えれば、多少は楽になる。
「ん、ァ。あ、ああ……ぅあ、あ」
「……ンッ」
 びくびくと足が揺れる。でかい。苦しい。彼にすがりついて爪をたててしまいたいけれど、そうしたら抑えがなくなって、挿れられただけでイクなんて情けない様を晒してしまいそうだった。仕方なく、必死に自身をつかみ衝撃に耐える。
「あー、あ、あーッ! は、ふぁ、あ」
 はくはくと口を開閉すれば、敦がそっと唇を撫で、そうして手のひらを頬へ滑らせる。こぼれた涙を拭って、ふわり、と微笑んだ。
「赤ちんの中、気持ちいね」
「ァ、ん、ぁ……そう、か」
「うん。すごくあったかくて気持ちいい。中がうねって、絡みついてきてね。ギュッギュッて」
 そういうことは言わなくていいと睨みつければ、ごめんねと目を伏せられる。動くね、と腰を掴まれたと思えば、そのまま乱雑に抽挿が始まった。
「ァッ、あー、あっ、ひっん、ぁ……ぅあ」
 彼の熱が、僕の内壁をぐりぐりとえぐる。傘を張った部分が気持ちいいところに当たるように、けれど毎回微妙に角度を変えて肛内を擦りたてられる。
「ぁっ、はっ……や、ぁ……んぁあ」
 収縮する肉は、彼の肉を喜んだ。引き抜かれれば絡みつき、押し込まれれば緩み受け入れる。彼を受け入れている部分を指でなぞられれば、足の先まで電流が駆け巡った。
「ひぁ、あー、あっ、あああ、あ、あ」
 足の指先を丸めて、彼の腰に絡みつける。ぎゅ、と力を入れれば角度が変わって気持ちがよかった。脊髄を駆け上がる快感に、我慢させられ続けた花芯が震える。
「あつ、……あつ、し……ひぁ、あ、……イ、か、せろ……」
 涙でゆがんだ視界で訴えれば、うん、と紫色の何かが笑う。
「一緒にイこ」
 目の前がゆがんで何も見えない。気持ちいいばかりが先立って、視界がチカチカ白く点滅した。もう少し、もう少しでイける。
「中、には……出すな、よ……ッ」
 それでもどこか冷静な自分がそう言えば、敦は頷いた様だった。
 腰を抱え上げられてガツガツと抉られ、自身を押さえていた手を外すように促されれば、一気に解放感が押し寄せてくる。
「――――ッ!」
「……ッ」
 声にならない悲鳴を上げて達すると同時に、熱いものが引き抜かれ、そうして生ぬるいものが尻にかけられるのを感じた。




「赤ちん、大丈夫?」
「大丈夫だ。でも……やっぱり少し腰が痛いな」
 久々のセックスに足腰が少々馬鹿になっていた。すぐにチームメイトの元に戻るのは難しそうだな、とため息をつく。
「ごめんね、赤ちん」
 ため息を聞きつけてうなだれる敦に、お前のせいじゃないよと微笑みかけてその紫色の髪を撫でてやる。
「敦、僕が好き?」
「うん。俺、赤ちん大好きだよ」
「あまり会えなくても?」
「うん。寂しいけど、会えないわけじゃないから、大丈夫」
「そう」
 彼の返答に口端があがる。
 本当に、よく躾た。中学時代の僕に拍手を送りたい。
 ずっと欲しかったものが手に入った上、それは離れても絶対に僕の手から離れない、離れようとしない。その事実に、セックスと同じくらいの快感が駆け巡る。
「僕も敦が大好きだよ」
「うん」
「次は、ウィンターカップかな」
「うん」
 彼の唇にそっと唇を落としてやって、にんまりと微笑む。
「次は、僕がお前のものを舐めてやる。楽しみにしておけ」
 そう言い置いて、僕は甘ったるい空気の立ち込める部屋を後にした。



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