ピッと通話の終わった合図が聞こえ青峰がそちらを見上げると、振り向いた若松は申し訳なさそうに眉を下げた。
「悪い、青峰。」
出掛けられなくなった。
続く言葉はいくら幼くなった青峰でも容易に想像ができた。
「実はクラスの奴が、」
「別に良いからさっさと行けば?」
若松の言葉を遮るように出たその声は、青峰が思った以上に暗く拗ねたようなものだった。自分の方が先だったのに、後から電話してきたクラスメイトを優先させるのか。そんな認めたくない考えが、青峰の頭の中をよぎる。
「…悪い。」
どんどん不機嫌になっていく青峰に、若松は更に申し訳なさそうに謝った。そんな風にされたらまるで、自分が楽しみにしていた予定がダメになってしまった子供のようではないか。
「別に謝んなくて良いし、早く行けって。」
げしげしと足に蹴りを入れながら、青峰は急かすように若松を部屋から追い出そうとしている。
「…一人で、大丈夫か?」
「ヘーキだし。」
きっと意地を張っているのだろう。そんなことは目に見えて分かったが、なんせ青峰はプライドが高い。若松はこれ以上余計なことは言わない方が良いと判断し、青峰に押し出されるがまま部屋を出た。
後ろで閉まったドアの音に小さなため息がこぼれる。本人は平気だと言っていたが昨日のことを考えるとやはり不安は消えない。若松はポケットに入れた携帯をもう一度取り出し、電話帳を開いた。