『明日出掛けねェ?』
若松にとって高校生活最後の冬休み。最初の一年に比べたらかなり良好な関係を築けるようになった青峰から、突然のお誘いメールが届いた。
部活が休みという貴重な一日。どうしようかと悩みもしたが、青峰と過ごす時間ものもう残りわずか。用事はなんだか知らないが、部活以外で奴との思い出ができるのも悪くはない気がした。
『良いぜ。』
そんな了承の返事に、青峰が一人部屋でガッツポーズをし浮かれまくっていたことなど、若松は到底知る由もなかった。
波の音、風の音。鳥たちの鳴き声。
小さな自然の音が、若松の心に響く。
行先を告げない青峰に渋々着いて来たその場所は、桐皇学園の最寄りから電車で45分程の場所にある、海岸だった。季節外れの海はやはり客も少なく、数えられる程度にしかいない。
さぞ冷たいであろう海水に素足で入っていく青峰を、若松は少し離れたところから見つめていた。
「アンタもこっち来いよー!」
水をぱしゃぱしゃと蹴飛ばしながら、こちらに向かって手を上げている青峰の姿に、笑みが零れる。
ガキだな。と思いながら、それに応えるように自然とそちらへ足が向かってしまう自分もきっと負けてないのだろう。
「なぁ、若松サン。」
「んー?」
水を蹴りあげながら、二人で並んで浅瀬を歩く。
「やっぱ、県外行くんだよな?」
「?…あぁ、大学か。一応推薦貰えたからな。そのつもりだ。」
「ふーん。」
青峰は何か考え込むような難しい表情を見せ黙りこんだ。なかなか口を開こうとしない青峰に若松は怪訝そうに眉を寄せる。
「おい、青み、「あのさ。」
「…何だよ。」
まるで、試合中であるかのような、真っ直ぐな青い瞳が若松を見据えた。
自分だけに初めて向けられる意志のこもった強い視線に、若松の心臓が跳ねた。
「好き、なんだけど。アンタのこと。」
「…え………は…、はぁっ!?」
「だから、俺と付き合って欲しい。」
二人を包んでいた自然の音が、ぴたりと消えた。
決してからかっているとは思えない青峰の真剣な様子に、若松の口は閉じたり開いたりの繰り返しを続けている。
「っ、あの、」
「俺、本気だから。…性別とか、関係ないし。」
まさか、まさか自分が。あの青峰大輝に恋愛感情を持たれていたなんて。頭の中を猛スピードで駆け抜ける様々な情報を、若松は必死に整理していく。
「返事、考えといて。」
「……。」
「……。」
無言の空間が、二人の間を流れた。それは若松にとってあまり心地よいと言えるものではなかった。
どのくらいそこに二人して突っ立っていたかは分からない。沈黙を破ったのは、青峰の方だった。
「あー…、用済んだし、そろそろ帰ろうぜ?」
「えっ、ま、済んだって…」
明日も朝から部活だろー、と別に普段と変わらない口調で言葉を残し、青峰はすたすたと前を歩いて行く。
しかし、ある一点が目に入り、若松はハッと目を見開いた。
ほんの小さく、青峰の指が震えているのだ。
「っ、」
考えてみれば当たり前だ。普段通りを装っているつもりみたいだが、そりゃ内心は不安でいっぱいに決まってる。男に告白だなんて、ただ好きな相手に思いを伝えるのとではわけが違うのだ。
「青峰!」
若松は小走りで青峰の隣に並ぶと、はっきりとした声で告げた。
「お前とのこと、ちゃんと考える。だから…その、少し待っててくれないか?」
「っ!お、おう!」
やがて二人の手が繋がり、もう一度この場所に来る日が訪れるのか。
それは、海のみぞ知る。
あとがき
成瀬様、リクエストありがとうございました。これはデートと呼んで良いのかかなり悩みました…。でも青峰はデートだと思っています!(笑)こんな作品ですが、少しでも楽しんでいただけてれば幸いです(>_<)
ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回作もよろしくお願いいたします!