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「何、帰ってきたの?」


彼女は鬱陶しそうに前髪を掻き上げながら、立ちすくんでいる二人の元へと向かってきた。男の方は車の横で不思議そうにこちらを眺めている。



「えっと、青峰、この人は…」



「…俺の、母親。」



青峰の口から出た単語に若松は驚いた。彼女は若松の知っている【母】というものの姿とは、とても似つかない外見だったからである。さっきは少々派手な格好の女性くらいに印象付けたが、近くで見ればそれは若松の思った以上だった。香水の匂いと、派手に着飾った服装。まぁ今は水商売をする母親も増えてきている時代なのだから、よくよく考えれば別に取り立てておかしなことではないのだ。



「っあ、初めまして。俺、青峰と同じバスケ部に所属している若松といいます。」


「…おい、」


「こいつ体調崩してるみたいで、それで今…」



簡単な挨拶と共に青峰の状態を伝えようとした若松だったが、それは彼の母親によって遮られた。



「あぁ、そう。なら私達は場所を変えるわ。」


「…え?」


「だって私あの人と約束してるし…病人が家にいるんじゃ、することもシにくいでしょ?」



若松は唖然とした。男と約束してすることと言えば、そういう事情だろう。だが口ぶりからしてあの男は間違いなく青峰の父親ではないはずだ。なら客の男か。…いや、それにしたって、



「あなたの息子の具合が悪いって、言ってんですけど。」


「だから?それだけなら私達もう行くけど?」



それだけ、って。何だそれは。青峰がふらふらな状態なのは一目見ればすぐに分かることだろう。若松の胸の中で、熱い何かが一気に込み上げた。



「ちょ、アンタ…!」



若松が車へと戻る母親を引き留めようとした瞬間、ぐっと妨げるように横から服を引っ張られた。




「別に良いんだよ。」


「良いって、お前なぁ…!」



「独りとか、慣れてるし。」



小さく笑うように上がった口角とは裏腹に、青色の瞳は虚しさを映した。