side A




何で俺なんかにやられっぱなしになってんだよ。


アンタの嫌いな、青峰大輝だぞ。


いつもみたいに怒って、説教喰らわせてみろよ。



普段は部活に出ろだの、授業をサボるなだの喚き散らしている若松が、理不尽なこの暴力行為には、抵抗もせず目に涙を溜めて睨み上げることしかしてこない。青峰にはそれが不思議で、もどかしくて堪らなかった。



暴行したい程憎いだなんて思っていたわけじゃない。ただ、部活中いつものように部員と楽しげに笑い合う若松を見た瞬間、自分の中の何かが切れ、気づいたときには部室に一人残っていた若松を組み敷き、馬乗りになっていた。



それから頻繁にこの時間は訪れた。自分には決して向けられることのないあの表情を見るのが苦しくて、ぐちゃぐちゃな感情を吐き出すように、若松本人に暴言や暴力という形で当り散らした。



いくら青峰の力が強くたって、若松だってそこは負けていない。なのに抵抗もせず、されるがままになっている事が青峰の苛立ちを更に掻き立てた。



「はっ。んな顔で睨まれたって全然怖くねーんだけど?」



「ぐっ…ぁ、」



どんなに憎まれ口を叩こうと、どんなに暴力を続けようと、若松が反撃の姿勢を見せることはない。



「…アンタさぁ、少しはやり返せよ。」


「っ、」



何も言わず、今日もただ見つめてくるだけの若松を、青峰は見下ろした。



「…今日はもういい。」



身体を退かし、浅い呼吸を繰り返す若松に背を向ける。



こんなことをいくら続けたって自分には、眉間にシワを寄せたお決まりの表情しか見せない。そんなことはもうとっくに分かっている。



だから、一発でも良いからやり返してみろ。





誰かに気づかれる前に、



自分自身じゃ歯止めの効かない俺を、



早く止めて。









あとがき
まず初めに、性的な行為の混じった暴力は行っていません。そこまで行くと本気で取り返しがつかないと心のどこかで思ってる青峰くんです。へたれっぽくも見えますが、繊細なだけなんです(笑)
両サイド書けて良かった〜!あ、この後ちゃんと柳瀬の妄想の中では救済されてます!ハッピーエンド大好き!
ここまで読んでいただきありがとうございました!