「センパーイ!凄いっスよー!」
犬は喜び庭駆け回る、とはこういうものか。雪の積もった一面真っ白なストバスに足跡を付けまくる黄瀬を少し離れた場所から眺めつつ、笠松は聞き慣れた唱歌を思い出した。
ここ何年も訪れなかった大雪が関東地方に降り注いだのが、昨日から今日にかけて。わざわざこんな寒々しい日に外出なんてするつもりなんてさっぱりなかったのだが、黄瀬からの半ストーカーまがいのメールや着信攻撃で決心を折られた笠松は、今ここに居る。
「見て!俺の形〜!」
でかい人型に窪んだ積雪の横に立ちながら、顔面と身体の腹側をびしょびしょにした黄瀬が嬉しそうに手招きをする。何故後ろ向きに倒れなかったのか。それはきっとアイツがただのアホだからだろう。
「おー…スゲーな。」
「センパイも、」
「やらねーよ。」
即答で答えると、ですよねーと黄瀬は笑う。そしてその場にしゃがみ込んだかと思えば、近辺の雪を両手で掻き集め始めた。
「雪だるまでも作んのか?」
「そうっス!」
鼻唄をうたいながらご機嫌な様子で作業をする黄瀬を見て、まぁ良いかと笠松も隣にしゃがんだ。こんなことでも、見かけによらず何だかんだ思い詰めてしまうこの後輩にとって気分転換になるのなら、たまに付き合ってやるのも悪くない。
「笠松センパイ?」
「…なんだよ。」
「何かさっきから俺の事見すぎじゃ…、あ!もしかして見惚れてたんスか!俺の顔に、っぶへっ!?」
黄瀬の顔に作りかけの雪だるまがめり込んだ。
「い、痛いっス…!!」
「誰が見惚れるか!わけ分かんねーこと言ってんじゃねぇ!このっ…!」
「う、わ!ちょ、冷たっ…俺だって!」
「うぉっ…!やりやがったな黄瀬ェ!」
雪が溶けて、花が咲いて。
もうすぐ春が、やってくる。
あとがき
せっかく関東に雪が降ったので、これは雪ネタを一本書かなくては!と思い仕上げました。黒バスの舞台も関東だし。きっと彼らも大変だったんだろうな〜。積もった雪を目にした二号の反応が気になりますね!
そのうち青若でも雪に因んだお話を書きたいなーと思ってます。
それでは、ここまでお読み下さりありがとうございました。