どういう事だ。
青峰の機嫌が日に日に悪くなっている。



元々愛想の良い顔とはお世辞にも言えないが(もちろん自分も)、それでもはっきり分かるくらいに機嫌の悪さが滲み出ている。何だ、何が気に入らない?俺が原因なのか?自意識過剰かもしれないが、明らかに俺への態度はほかの奴らとは別だ。以前に増して殺気を放ち睨んでくるわ、会話をしても終われば舌打ち。これは完璧に敵意を向けられている以外の何ものでもないだろう。


だが理由はなんだ。恒例だった部活前の迎えも止めたしアイツに怒鳴る回数も減らした。まぁ部活に顔を出すことで自然とそれらは減ったというのもあるんだが。俺が勝手に自己解決したとはいえアイツの望みどおりになってんだから良いじゃねェか。


しかしそんな俺の考えとは裏腹に、青峰の不機嫌ただ漏れ状態は変わらない。桜井を含め、特に一年達は完璧に怯えきっている。監督はいつもと変わらず何も言わないし、お前たちで何とかしろって事なのだろうか。おまけに先輩達は受験生ということもありWCが終わってからは部活には来たり来なかったり。どうにか解決策を練らないと…。



「っだぁぁぁ!!!何で俺がアイツの事でこんな悩まなきゃいけねーんだ…!!!」



WCの後、あんなに悩みに悩んで結論を出しそれを実行してたと言うのに。何が気に入らねェんだ、あの真っ黒くろすけは。
決して賢いとは言えない頭をフル回転させ、一人で悶々と考えた。が、結局結論は出ることはなく、やはり最後に頼ってしまうのは…先輩だ。







コンコン、と部屋の扉をノックする。



「若松っス。あの…」


「おー、待ってたで。とにかく入りや。」


扉が開くと部屋の主がひょこっと顔を出し、中に招き入れられた。



「お邪魔しまス…あ。」



部屋の真ん中においてあるテーブルにはもう一人見知った顔が。



「諏佐さん!」


「よう。」


「ワシが呼んでおいたんや。お前がいきなり電話なんて掛けてくるから驚いたわー。」


「ス、スイマセン。」



さすがに推薦とはいえ、受験を控える先輩の部屋にいきなり押し掛けるのは気が引けたのだ。



「どうせ青峰のことだろ?お前の相談って言ったら。」


「ほんなら諏佐もおった方がエエかと思ってな。」


「なんか…スイマセン、ホント。」



もうすぐ主将となり後を引き継ぐのは自分なのに、こんな時期まで先輩達に世話をやいてもらう事になるとは。がくんと肩を落とした。



「まぁそう気にするなよ。」


「せやで、若松。…で、お前の相談ちゅーのは何や?」



「、最近の青峰のことなんスけど…」









「今日はホントありがとうございました。…じゃあ俺はこれで!」



頭をペコリと下げそう言うと、若松は自分の部屋へと駆け足で戻っていった。その背中を見送り、横に居る男に目を向ける。また面白そうに笑みを浮かべているが、何を考えているのやら。
この男の内面は非常に読み取りにくい。一緒にいる時間が長い自分はほかの奴と比べれば、少しは分かっているつもりだが。



「何や諏佐。人の事凝視しよって。」


「いや、お前がまた妙な事を考えてるんじゃないかと思っただけだ。」


「別にそんな事あらへんよ。真面目に相談にものったで?」


「…まぁな。」





若松の相談内容というのは、思ったとおり。青峰との関係の事だった。WCの少しあとからアイツの青峰に対する態度が変わったのはすぐに分かった。まぁ青峰が部活に参加するようになったことが大きな理由なのだとは思っていたが。まさか黒子や火神の名前まで出てくるとは。アイツらとの試合で青峰が変わったのは確かだが、アイツがそこを気にしていたとは知らなかった。それは責任感からなのか、もしくは…嫉妬心からなのか。まぁ本人が自分で気づくまでそこに触れてやるつもりはない。



そして青峰も青峰だ。
若松が無駄に世話をやいたり怒鳴るのをウザがっていたのはアイツ自身だし、てっきり内心喜んでると思いきや逆にこれだ。それはつまり、



「なぁ今吉。…青峰のやつ、実はそんなに若松の事嫌ってたわけじゃなかったんだな。」


「ま、ウザいウザいも好きの内っちゅー話や。」


「…本人、気づいてないんだろうな。」



最早溜息しか出てこない。若松の自分への態度が変わったことに不満を感じて、が不満の理由が分からなくて更に苛々する。まさに悪循環だ。睨むのは…まぁそれだけ若松を見てるって事か、奴の周りの連中への感情か。舌打ちは上手く前のように会話が成り立たない事への不満の表れだろう。若松はそんな青峰の真意には微塵も気付かず(まだ青峰本人ですら気付いてない部分が多そうだが。)、自分は嫌われていると思い込んでいるようだった。



俺はもう一度今吉へと視線を向ける。実際のところ、こいつは若松が相談に来る前から今回の件の状況はあらかた把握していたのだろう。本当に底の見えない男だ。



「あの二人が話し合ったところで上手く収まるのか?」


「なんや、諏佐もそれが良い言うてたやん。」


「・・・。」


「それにや、ワシらがあれこれ口挟んでどないするん?これはあの二人の問題やで。」


「…そうだな。」


「諏佐は心配性やなー」


「お前は面白がってるだけだろ?」


「…どうやろな。」



どいつもこいつも。何を考えてるか分からない腹黒だったり、自分の気持ちに気づけない天然だったりアホだったり。しかしそんな桐皇バスケ部とも、もうすぐお別れなわけであり当たり前だが寂しさだって感じている。



たまには様子を見に行ってやるか。



また明日、そう今吉に言い俺は部屋へと戻った。



机の上の赤本が目に入り苦笑いが漏れていたのには自分でも気づいていなかった。