若松は横で眠る青峰を見つめる。結局あの後、家に帰りたくないと言い張っていた青峰だったが、若松の思っていた以上に体調は悪かったらしく、あの場で立っていることすら危うい状態だった。
ふらつき始めた青峰を近くにいたタクシーに押入れ、ほぼ無理やりといった形で住所を聞き出した。本人はしぶとく嫌がっていたが、こんな状態で家に帰らない方がおかしいだろう。…こんなになってまで家に帰る事を拒む理由はなんなのか。
それから30分程経ったところで、運転手から声がかかった。
「お客さん、もうすぐそこですよ。」
どの家なのかは本人しか知らないわけで、とりあえず若松は青峰を起こそうと小さく揺すった。
「んっ…」
「もう着くってよ。お前の家、どれだ?」
ゆっくりと覚醒した青峰は窓の外をきょろきょろと確認した。
「…ここで良い、すぐだから。」
「分かった。すいません、そこの角までで。」
代金は青峰が払うと言って聞かなかったが、とりあえず強引に若松も半額支払った。一礼してタクシーが去るのを見送る。こいつを送り届けたら、自分は電車で帰ればいい。
「で、お前んちどれだよ。」
「…あの白い壁の家。」
青峰は先にある一軒家を指差した。ほんの少しの距離だが歩くのはやはりキツイらしく、若松は身体を支えてやる。なんなら家の前に着けてもらえば良かったのに。意地を張ったつもりなのだろう。
その時、
「ん?」
ちょうど前方から来た黒い乗用車(割と高級車)が青峰家の前に止まった。中からスーツを着た男性と、少々派手な洋服をまとった女性が降りてくる。
「あ…」
「知り合いか?」
「・・・。」
反応を示したから問いかけてみれば、まただんまりだ。
「こ、ここまでで良い。」
「は?っおい、青峰!」
いきなり距離を取ろうとする青峰に、若松は慌てた。急に何だというんだ。そんな二人の声が耳に届いたのか、家に入ろうとしていた先ほどの女性が振り返った。
「…大輝?」
怪訝さを含んだようなその声に、びくりと、青峰の肩が揺れた。