morning





「ろよ、…起きろって、」



体を揺さぶられる振動と何かが圧し掛かる重み、そして耳元で聞こえる少しトーンの高い声で若松の意識はだんだんと覚醒していく。



「ん…、なんだよ。」



時計を見れば、ただいまの時刻は七時半。今日の練習は午後からのためまだ起きるには早い。出来ればもう一眠り、そう思い二度寝をしようと若松は体を再び布団に沈めた。



が、何故か今日に限って早起きをしている青峰はそれを許さなかった。



「ぐへっ!てめェ…!」



突然の衝撃に若松の口からは蛙の潰れたような声が出た。そこまで重たくはないのだが、寝起きの状態で背中の上をドスドス踏まれれば、なかなか応える。



「んのっ…降りろ!」


「じゃあ起きろ。」


「あんまちゃんと寝れてねぇから眠ィんだよ!」


「…何で?」



ここで。お前の一言で頭がいっぱいでなかなか眠れませんでした、…なんて言った後にはどんな反応が待っているのか。きっと笑い飛ばされるのが落ちだろう。とても正直に言う気には到底なれない。



「っお前の寝相が悪くて寝づらかったんだよ!」


「はっ、んなワケねーだろ。つーか腹減ったんだけど、何か作れよ。」



若松を蹴り起こしながら踏ん反り返る五歳児は、傍から見たらどう映るのか。しぶしぶ重たい体を起こすと、若松は顔を洗いに洗面所へと向かう。よく見れば青峰は既に洗顔も着替えも済ませているようだ。



「はぁ…いつもはぐーたら寝てるくせに。」


「良いじゃん、別に。」



青峰はまるで旅行気分とでも言うように、楽しげにリュックから着替えを取り出しせっせと整理している。別に普段から住んでる部屋なのに。そんな青峰を視界に入れつつ、若松はタオルを掴んだ。



顔を洗えばそれなりに目が覚めるもので、若松に二度寝する気はもう起こらなかった。しかし思う事が一つ。確かさっきコイツは自分に朝飯を作れと言わなかったか?何故か俺が世話係みたいになってしまっているが、飯は桜井に頼むべきだろう。



「…なんだよ?」


「いや、フツ―に考えて飯は桜井に頼んだ方が良いだろ。」



そんな若松の言葉に青峰は渋々、というような表情で答えた。



「別に良いだろ、誰のでも。つべこべ言わずにさっさと作れよ。」



でーん、と青峰はベッドに大の字で転がる。どうやら意思を変える気はないらしい。普段ならもう若松の堪忍袋が切れている頃なのだが、相手は一応青峰と言えど見た目は可愛らしい子供。結局若松は昨日からそんな青峰の健在しているわがままっぷりを許し受け入れてしまっているのだった。