3




ガタン、ゴトン。



一定のリズムで体が揺れる。車窓から見える景色は見渡す限り、緑色。田舎中の田舎と言ったところか。



乗客は数人程度。青峰は窓枠に肘をつき、ぼんやりと流れていく景色を見つめる。日曜日なのを良いことに、朝っぱらから何も考えずにこんなところまで来てしまったわけだが。こんな場所に本当に若松は居るのか。



「次は〜…〜」



車内アナウンスが流れる。確か…と思いつつ、今吉から手渡されたメモを見ると次の停車駅の名前が書かれていた。



"若松の実家の住所や"





降り立ったその駅は東京とは真逆のボロく寂れた場所だった。初の切符拝見を体験し駅を出ると、見渡すかぎりに田畑が目に入る。とりあえず近くで農作業をしていた老人を捕まえ、住所のメモを見せると大体の方角を教えてもらう事ができた。



青峰はのんびり歩きながら考える。彼に会って自分は何を話すつもりなのだろうか。あの時、若松の本意には思えなかったが一度フられてしまっているというのに、わざわざこんな地方まで追いかけてきた自分の女々しさに、青峰は悪態をついた。



「…青峰?」



久しく聞いていなかった、その声が青峰の耳に届いた気がした。ここまできて幻聴まで聞こえてきたのか。足を止め振り返ってみれば、驚いたようにこちらを見つめる若松がいた。



「え…若松サン…?」


「お前、こんなとこで何やってんだ?」


「…っアンタに、会いに、」



予定よりも大分早い再会に背中がじんわりと熱くなる。青峰の足は地面にへばりついたまま、そこから動かない。緊張、しているのだろうか。何を話せばいいのか。伝えたい事は一つのはずなのに、のどが渇き声にならない空気が漏れた。



「あー…、とりあえず、ウチ来るか?」


「…おう。」



小さな瓦屋根の家がぽつりぽつりと見えてくるまで二人の間に会話はなく、初めて互いの間に静かな雰囲気が流れるのを感じた気がした。