腑に落ちない



WCが終わって、青峰が練習に参加するようになった。もちろん遅刻はするし毎日出るまでとは言わないが、少なくとも以前よりは確実に。あいつが来るようになって桃井は喜んでたし、桜井もどことなくホッとしていた。



それは俺も同じだった。



初めて時間通りに体育館に現れた時は目を見開きさぞかしアホ面だったであろう顔をして驚いたけど、少しずつではあるが意欲的な姿勢を見せるようになった事が純粋に嬉しかった。だけどそれと同時に、あいつに対して今まであれやこれやと自分のとってきた言動は本当に無意味だったんだと実感した。



青峰を変えたのは俺じゃない。



あの試合で俺たちに、青峰に勝った黒子と火神だ。


結局俺がどう足掻いたところで、青峰より強くなることは出来ないし認めさせる事も、あいつを変える事すら出来なかった。


WCが終わってからも今までと同じように、あいつが来ない日は俺が毎回探し部活へ来るようにと言っていたが、こんな事をしても何を言おうと俺の言葉があいつに届くことはないんだと。そう考えることでやっと気持ちに整理をつける事が出来た。そしてその日を境に、



俺は青峰の元へと足を運ばなくなった。










最近若松サンを見るとやけにイライラする。


まぁ前からぎゃんぎゃん怒鳴り散らしてくるわ、俺より弱ぇくせに突っかかってくるわでウザかったわけだけど。どういう事かここ最近はぴたりと、部活に出ない俺を探しに来なくなった。前より俺に怒鳴る事も減ったし、今までなら何かしら文句の一つでも言ってきそうな場面でも早々と会話を切り上げて自分の練習へ戻るようになった。


そのくせ先輩達に褒められると飼い犬の如く愛想振りまいたり、桜井やほかの後輩と今まで以上にスキンシップを取ったり…



むかつく?いや、やっぱ苛つくが正解だ。



わけわかんねェ。あのうるせーお節介が関わってこなくなって、叶ったり願ったり…だったか?そう、そのはずなんだ。



「なーにそんなに若松のやつ睨んどんねん。」



「…別に、睨んでねーよ。」



何考えてんだか分かんねーような笑みを浮かべながら、横から今吉サンが声をかけてきた。



「あんな熱い視線送っといてそれはないで青峰。まぁ若松は気づいてへんみたいやけど。」



この人の人を見透かすような、探るような目は正直苦手だ。



「お前、拗ねてるんやろ?」



と、さも分かってましたというように面白そうに聞いてきた。…拗ねる?何で?誰が?



「はっ、意味分かんねーし。」



「だーかーらー、最近若松に構ってもらえへんようになったからお前、寂しいんやろ?」



「っんなわけねーだろ!」



何言ってんだ、この男は。そんなことは絶対ない。つーかあり得ねーし。ウゼーのが絡んで来なくなってこっちは清々してんだよ。



はぁ。とため息をつき視線を上げると、ちょうどこっちに目を向けた若松サンと視線が重なった。思ってもいない事を指摘されたせいかモヤモヤした妙な感情が湧き上がる。…なんなんだよ、ほんと。ますます苛つきが増し、すぐに目をそらして体育館の出入り口へ向かった。



だから後ろで今吉さんが、そんな俺を見てまた笑みを浮かべていたことも、あの人が眉間にシワを寄せながらこっちをまだ見ていたことにも、俺は気づかなかった。