二匹のお宅訪問





「っ何なんだよオメーは!」



後ろから響く少し重たい足音に嫌気がさした笠松は、振り向きながら声を荒げる。



「えっ、だから…!俺も、泊まりに…ごにょごにょ、」



さっきまでは待って待ってと騒がしく、置いて行かれた飼い犬のように追いかけて来たくせに、笠松の家に近づくにつれて黄瀬はだんだんと大人しくなっていった。勢いで追いかけて来てしまい、だんだんと冷静になったは良いが結局目の前を歩く笠松の反応が怖くてうじうじ…まぁ、そんなところだろう。



「はぁ…」



頭の上で呆れたようなため息が聞こえ、二号は不思議そうに腕の中から笠松を見上げる。



「セ、センパイ?」



機嫌を伺うように問いかける黄瀬に、諦めて前方の自宅を指した。



「来るのか来ねェのか、はっきりしろ。」


「い、行くっス!」


「なら後ろでグズグズ歩くな。うぜーから。」


「は…はいっ!」



元気な返事の後、先程とは打って変わって満面の笑みで着いて来る黄瀬は犬のようだった。自分で許可しておいてあれだが、二号も居るのに黄瀬まで共に一晩一緒に過ごすなんて大丈夫なのだろうか。笠松はすぐさま近くまで来ている未来で苦労する事になるであろう自分を思い浮かべた。



「言っておくけど、俺と二号の邪魔したらシバき倒すからな。」


「じゃ、邪魔って…やっぱ良からぬ事でもするんスか!?!?」


「何だ良からぬって。お前過剰反応しすぎ、犬預かるくらいで。」



だってー、と反論を零す黄瀬をスルーしながら笠松は家の鍵を取り出す。



「あ。そういや明日まで両親とも留守だから。」



え。



黄瀬は固まる。…両親不在、という事は。自分が来なかったら風呂どころではなく本当に密室の中彼らだけになっていたのか…!!!良かった、着いて来て良かったっス!!!



「ワン!」



笠松が家のドアを開けると同時に、二号はその腕から抜け出すと家の中を駆け回った。



「こら、お前はシャワーだ。」



慌てて中に入り二号をまえると笠松はそのまま風呂場へ直行する。



「セ、センパイ!俺も…!」



「お前は適当にテレビでも見てろ。」



ぱたんッ。



乾いた音とともに黄瀬の目の前に扉が立ちふさがる。しょん、と肩を落とし黄瀬はリビングへ向かった。



ソファに座りぼけーっと天井を見つめた。黄瀬が笠松宅に入ったのは今日で二度目である。長居したわけではないが元々顔も良く人受けが良い黄瀬はすぐに笠松の両親に気に入られた。あの子にこんな素敵な後輩が居るなんて…!とお母様は目がハートだった。まずは周りから固めようという戦法だ。



とりあえず二号と笠松の愛の育みを何とか阻止出来たことに、黄瀬はホッと息を吐いた。