別に寝る時も一緒に居てくれるんだ、なんて思っていたわけじゃない。ただ、小さくなってしまったのは身体だけではなく精神面も含まれているのか、急に襲ってきた寂しさを紛らわすように青峰は手元のシーツを握りしめた。
時計やエアコンの音が聞こえる。いつもは対して気にならないその音が、今日はやけに耳に残る。
すると、コンコン、と控えめに扉をノックする音が静かな部屋に響いた。外からの掛け声がないという事は桃井ではない。なら誰だ、と布団に包まったまま思考を巡らせていた青峰だったが、またノックする音が聞こえたため、のそのそと起き上がりドアへと向かった。
「…誰?」
「あー、俺。」
扉の向こう側から聞こえた声は、先ほど自室へ戻ったはずの若松のものだった。青峰は少しだけドアを開き、隙間から顔を覗かせた。
「なに?」
「…一緒に寝るか?」
若松は腰を少し落としつつ青峰に問いかけた。もしかしたらこれは勘違いかもしれないが、自分が部屋を出て行くときの青峰の背中がなんだか寂しそうに見えて、それが気がかりで戻って来てしまったのだ。
「・・・。」
目を見開いたまま一時停止している青峰の様子に若松は、やっぱり勘違いだったのか、と心の中で小さく呟いた。まぁ風呂ではしおらしくしていたが、いくら5歳児とは言え中身は高校生のあの青峰大輝なのだ。
「やっぱ戻るわ、起こして悪かったな。」
おやすみ。と言葉を続け去ろうとした若松だったが、ぐっと体に力が加わり引き戻された。
「え、」
Tシャツの裾をぎゅっと掴む小さな手。
「あ、青峰?」
「…眠い。」
「そ、そうか。」
「…寝相悪かったら蹴り落とすからな。」
青峰はそう言うとぐいぐいと若松を引っ張り部屋の中へと招いた。
布団の中に潜り込むと、すぐに青峰は若松の胸元へと擦り寄ってきた。体を丸めてそこに納まる様子は何だか猫のように見え、若松の母性…いや、父性本能(?)が大きく揺さぶられる。背中をあやすように軽くたたいてやると、青峰は若松の服を握りしめながらゆっくり目を閉じた。
「…アンタの匂い、なんか落ち着く。」
無意識で口から出てしまったのか。眠る寸前の青峰が落とした爆弾発言ですっかり頭の中が支配されてしまった若松は、なかなか寝付けない夜を過ごすこととなった。