三年生が卒業し、桐皇バスケ部は本格的に若松が主将を務め率いるチームとなる形で始動した。しかしそんな中、原澤はとある問題に一人頭を抱えていた。
その問題とはご察しの通り、エースの青峰大輝である。彼の態度が完璧に主将の若松を嘗めきっているのだ。元々青峰は少なからず優遇された立場だったし、あの二人はずっと犬猿の仲だったため仕方のない事なのだが、互いの関係性がこのままでは新しく入る新入部員に全く上下関係の示しがつかない。せめて今吉の時のように、多少の敬語くらいは使ってもらわないと…
「と、言うわけなんですが。」
「くだらねー。」
「…せめて呼び捨てくらいはどうにかしてください。」
「・・・。」
こうして原澤に捕まったため、青峰が少し遅れて部活に現れれば当然のように若松が寄ってくる。
「遅ェ。」
「…若松。」
「あ?なんだよ。」
青峰は何やら考え事でもしているのか、首を傾げはじめた。
「なぁ、アンタ下の名前は?」
「名前?孝輔だけど。」
「…孝輔、さん。」
そう発した瞬間、青峰は自分の顔がみるみる熱くなっていくのが分かった。
「は?」
「や、やっぱ今のなし!」
「いや、なしって…え?おまっ、」
いきなり名前で呼ばれポカンとしていた若松だったが、まるで言い訳でもしているかのように、監督に言われたからだ。と、たどたどしく話し始める青峰を見てだんだんと気恥ずかしさが沸いてきた。
たかが名前を呼んだだけで、こうも大の男が頬を染めてわたわたとするものなのか。
「ま、まぁお前が敬語使ったりしてくれんならそれに越したことはねェけどよ…」
「…じゃあ、若松サン。」
「あー、そっちの方がしっくりくるわ。」
そんなやり取りを青峰に続いてやってきた原澤は観察していた。どうやら心配はそこまで必要なかったらしい。…ただ、
「チームメイト以上にならなければ良いんですけどねぇ…」
髪を弄りながらぼやいた、原澤の小さな予感はこの後見事に的中することとなる。