若松は自分の着替えとタオルを持ち、青峰の部屋へと向かった。いくら青峰が小さいからといって、不覚にもこんなにときめいてしまうとは。本当に、可愛すぎる。
『どうした、まさか怪我でもしたのか?』
『違う…シャワー。』
『シャワー?』
『…手が届かない。』
『っ、今行ってやるから、ちょっと待ってろ。』
『うん。』
備え付けのシャワーは普通の男子高校生なら難なく届く高さだが、考えてみれば確かに青峰の今の身長では無理かもしれない。必死でシャワーに向かって手を伸ばしている青峰を想像し、若松の口元はニヤつく。
「何でアンタが着替えとか持って来てんだよ?」
部屋に入ってきた若松の手に抱えられた荷物を見ながら、青峰は不思議そうに尋ねた。
若松は目線を下へと向ける。視線の先の青峰はバスタオルを羽織っているが、普段から使っているそれはあまりにも今の彼には大きすぎて、タオルから顔だけひょっこりと出ている状態なのだ。そんな姿に緩んでしまう顔を、若松は引き締めるので必死だった。
「いや、何なら俺も一緒に入っちまおうかと思って。」
「は、?」
「だってよ、手も届かねェのに一人で入るとか無理だろ?」
「…出来るし。」
ムッとして反論する青峰に若松は小さく笑う。この姿になってから若干だが、口調も変わったような気がする。子供らしさを含んでいるというか…。そんな事を思いながら、仕方なくシャワーだけ手渡すと青峰に声をかけた。
「じゃあドアの前で待ってっから、何かあったら呼べよ。」
「へーい。」
それから、ものの五分も経たないうちに風呂のドアが開き、もどかしそうな表情をした青峰が隙間から顔を出した。
「…アンタも入れば?」
若松が入ると、青峰は腰に巻いたタオルを奪おうとしたりシャワーを顔面にかけてきたりと散々悪戯をしまくっていた。が、頭を洗ってやり始めると、大人しくなすがままになっていた。
やっぱり弟が居たらこんな感じなのかと考えながら、若松は目の前の小さな青い頭を見つめる。
「おい、目ェ開けろ。流し終わったぞ。」
「ん。…もう出る。」
「ちゃんと髪乾かせよ?ドライヤー置いてあっから。」
青峰が出て行き一息つくと若松は自身の髪を洗い始めた。
5分程して風呂を出ると、目に入ったのは先程自分の置いた時と位置が変わっていないように見えるドライヤーと、床にぽたぽたとまるで足跡のように垂れている滴。若松は慌てて着替え、ドライヤーを手に取り風呂場を出た。
「青峰!」
「遅ェじゃん。」
思ったとおり、青峰の毛は湿っている。
「乾かせって言っただろうが。」
「めんどくせーし。」
「…ったく、ちょっとこっち来い。乾かしてやるから。」
渋々、といった様子で青峰は若松の傍までやってきた。
「すぐ終わるから暴れんなよ?」
「はいはい。」
ブォォォン、と生じる音と温風が青峰の髪を揺らす。梳くように乾かされるのが気持ちいいのか、もしくは眠いのか。青峰は目を閉じたままゆったりとしていた。
「じゃあ俺部屋戻るから、お前は今日はもう寝とけ。」
ドライヤーを片付けて脱いだ衣類やバスタオルを持ち、若松が声をかけると、さっさとベッドの上に移動していた青峰が掛布団の間から顔を覗かせた。
「…部屋戻るの?」
「あぁ、そうだけど。」
あっさりと答える若松に、青峰は少し拗ねたようにプイッと顔をそむけ背を向ける。
「青峰?」
「…別に、さっさと行けば?」
「・・・。」
布団に潜り込む青峰の耳に小さく「おやすみ」と呟かれた声と、ドアの閉まる音が届いた。