life




翌日。エースのいない部活がスタートしたわけだが、どうやら若松が頭を悩ますほどの事態にはならずに済みそうだった。不幸中の幸いとでも言うのか、練習試合や大会もしばらくは入らない。部員たちは一年を除き、みんな青峰のサボっていた頃を経験しているため、彼が部活に居ないことでの動揺はそれほど大きくなかった。最近は真面目に練習に出ていたエースがいない事に不思議がるものもいたが、欠席の理由は体調不良の扱いで申請されていた。



このまま何事もなく日曜日に突入してくれればいいのだ。平日については数日くらい学校を欠席するくらいなら多分怪しまれないだろう。



そんなふうに若松は悠長に考えていたのだが、皆が帰った部活後、部誌を書いている最中にひょっこりと部室に現れた青い髪の少年を見て、自分の考えは甘過ぎたと溜息をついた。



「何してんだ、てめーは自宅待機だろ。」


「…家やだ。母親がやけにベタベタしてきてウゼェし、つまんねーし。」



どうせ家でも学校でも寝てるだけのくせに。…まぁ母親に関しては、あんなんだった息子がいきなり可愛らしい幼児期へと変化したのだ。構いたくなる気持ちも分かる気がする。



「嫌だっつってもな…あ?何だそのリュック。」



青峰の背中には、小さくなった彼には少し大きいであろう、少し膨らんだ黒のリュックサックが。



「寮に戻んだよ。だから着替えとか。」


「はぁ!?バレたらどうすんだ!」


「ヘーキだって。」



自信満々にそう言うが、平気と言っても彼は今小さな子供なわけで…そんな事が校内に広まればどうなることか。



「一人部屋だしよ、人に会わねェようにすりゃ良いんだろ?」



頑として家に戻ることに頷かない青峰に、諦めた若松は仕方がないというように肩を落とした。



「分かった、好きにしろ。ただし、何かあったら俺か桜井に電話すること。日中は桃井でも良い。いいな?」



「おー。」



こうなってしまった以上仕方がない、何とかフォローしながら乗り切るしかないのだ。若松が時計を見ながら、夕飯はどうすると尋ねれば食ってきたと答えが返ってきた。とりあえず今日のところは気に掛ける点はないだろう。風呂に入って寝るだけだ。部屋のシャワーがあるから寮内を歩き回るような心配はない。



体育館の戸締りをし終えた後、一人で戻れると言った青峰の言葉を聞き流し、念のため人目を盗みつつ青峰を部屋まで無事送り届けた。





若松は自室に戻りベッドへ倒れ込むと、ぼーっと青峰の姿を思い浮かべる。足元をちょろちょろする姿はやはり可愛らしかった。本人にしたら嫌なんだろうが構ってやりたくなる。



と、その時。バッグの中から着信を知らせる音が聞こえた。ディスプレイに表示された名前を見て若松は驚いた。



『青峰大輝』



電話をしろとは言ったものの実際は自分のところではなく、何かあったら桜井にでも掛けるのだろうと思っていたのだ。



それにしても、もう何かあったのか。あの青峰が電話をかけてくるなんてよほどの…まさか、怪我とかじゃ…ごちゃごちゃ考えていた若松だが今だ鳴りつづける音にハッとし、携帯を耳にあてた。



「青峰?」


「…ちょっと、来て。」