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若松がいなくなった。その事に青峰が気づくまで差ほど時間は掛からなかった。



まず最初に携帯で連絡が取れなくなった。電話もメールも通じず、返ってくるのはお決まりの通知だけ。大丈夫、機械が駄目なら直接会いにいけばいい。青峰はたかをくくって若松の進学したと聞いた大学に乗り込んだ。バスケットボールを持った男が目に入り、あの人もどうせここでもバスケをやっているのだろうと分かりきった答えを浮かべながら近づいた。



「若松こうすけ?うーん、多分うちのサークルにはいないと思うけど。」


「じゃあほかにもバスケのサークルってあんの?」


「いや、この大学では一つだよ。」



返ってきた言葉に青峰は驚いた。てっきり大学でもバスケをやってるものだと勝手に思い込んでいた。辞めてしまったのだろうか。



そのあと、今年入った一年だというグループに話を聞いたが、誰もが皆その名前に聞き覚えはないと言った。もしかしたらたまたまこの人達とは面識がないだけかもしれない。何科かも分からなければ自分だけでは居場所すらも分からない。最終的に青峰は来賓用の事務局向かい、事務員に直接調べてもらう方法を取った。



結果は青峰の期待を何倍も裏切るもので、もともと若松孝輔という人物はこの大学に在籍すらしていなかったのである。



「どうなってんだよ…」



連絡もつかない、進学先だったはずの大学にも居ない。ほかの学校に行ったのだろうか。だとしても青峰には全くと言っていいほど若松の情報がない。



どうしたものかと途方に暮れかけた時、ふと頭に過ぎったのは青峰としてはあまり世話になりたくないが、彼が信頼を寄せていたあの先輩二人組の顔だった。






カラン、と氷が音を立てる。中のアイスコーヒーはそろそろコップの半分くらいに到達する。向かい合って座っているのは、手間取るかと思いきや、案外すんなりと会う約束をこぎつける事ができた今吉と諏佐だった。



「…で?お前は若松の居場所を知ってどうするんだ?」


「せやせや。フラれたんやなかったんか?」



二人は至って余裕そうな(片方はさらにニヤつきも含まれている)顔をして青峰に目を向ける。頼るというのは気に食わなかったが、もうこの人たち意外当てがなかったのだ。そのくらい、青峰は切羽詰まっていた。



「フラれた、けど…んな簡単に諦めきれねーし。」



二人が卒業してたった一年で、まさかこんな目まぐるしくあの桐皇バスケ部のエース様が変化を遂げるとは。若松を主将にして正解だとは思ったが、どうやら思いもよらない方へと事態は転がってしまった。二人の関係性は、今吉達の予想の斜め上を行ったのだ。



「一応知っとるで?若松の居場所。」


「ならっ、」


「でもな、青峰。勝手に俺たちが教えるわけにもいかないんだよ。」


「…そう、だよな。」



何でこの二人には教えて自分には何一つ教えてくれなかったのか。嫉妬と悲しさで胸が埋め尽くされる。目に見えて分かるくらいに沈みきった青峰に、今吉と諏佐は顔を見合わせた。



数分の沈黙を破ったのは、今吉のついた溜息だった。



「…分かったわ。若松のおるとこ教えたる。」


「っ、!?」



驚いて顔を上げる青峰に対して、諏佐はやっぱりかと言うように苦笑しながらその様子を見ている。



「ただな、教えるのと一緒に前もってお前に話しておきたい事があるんや。」


「話…?」


「せや。」



カラン、と、溶けて少し小さくなった氷が音を立てた。