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「…寝れねェ。」



あれから数日経ったが、昼も夜も何度寝ても一向にあの手の持ち主は現れない。やはり一回限りのたまたま見た夢だったのだろうか。更にここのところ青峰にしては珍しく、不眠がちなのだ。桃井には昼間に寝過ぎだからだと軽口を叩かれたが、そんな事はない。昼間もまともに眠れていないし、それに今まではいつでもどこでも寝れていたのだ。



ベッドの上で仰向けに転がったまま、ぼんやり天井を見つめる。明日だって、出るか出ないかは別として一応朝練というものがあるのだ。夜睡眠がとれないのは困る。



しかし、結局まともな眠りにつけないまま、窓の外から日が差し込み始める時間がやってきた。





「青峰君、本当に寝不足なの?」



放課後の部活の時間。うっすらと隈の出来始めた青峰を見て、桃井は目を見張る。冗談だとばかり思っていたが、どうやら事実のようだった。桃井の声で青峰に気づいた若松がこちらへ歩み寄る。



「体調管理くらいしっかりしとけ!」


「…分かってるっつーの。」



若松はいつものように一喝いれたのだが、普段以上に覇気のない青峰の声に意外そうな顔をして、さらにズカズカ近づいてきたかと思うと、伸ばした手をぴたりと青峰の額へくっつけた。



「ちょっと熱くねェか?」


「あー…ダリぃかも。」



その時、はたり、と青峰の思考は一時停止した。自分の額に触れる若松の手の平の感触に違和感を覚える。



「部活に支障でんなら保健室でも行って寝てろ。ついでに熱も計れ。」


「…おー。」



若松の手がするりと離れたが胸中のモヤモヤは消えない。珍しく反抗する様子もなく指示にしたがい体育館を出て行く青峰の後ろで、若松と桃井は首を傾げた。