群青に染まる




空いた窓から入る風に、短い青色の髪がさらりと揺れた。



「…ぐーすか寝やがって。」



若松は靡く髪に指をからませ、ゆっくりと優しく梳いてやる。



今日は珍しく部活に来ないと疑問に思っていたところ、信じがたいことだが体調を崩して保健室で寝ていると桃井から聞き、気まぐれに、寄ってみたのだ。青峰は見事に爆睡し、保健医は何か書き込む作業をしていて室内には静かな空気が漂っている。



「あなた達は喧嘩が多いって他の子から聞いてるけど、やっぱりキャプテンとしては心配なのかしら?」



髪を撫で続ける若松を尻目で捉え、保健医はからかうように問いかける。



「まぁ、一応エースなんで…」


「そこはちゃんと認めてあげてるのね。」



認めている、バスケに関しては。あれだけ見せつけられて認めないわけにはいかないだろう。



「でも、」



若松は髪を梳く手を一旦止める。



「やっぱりもっと頼って欲しいんスよ、本当は。俺なんかじゃ全然駄目なんだろうけど、それでも。」



前ほどではないが何でも一人でしょい込んでしまう、そんな青峰の荷を下ろせる場所に少しでもなれれば。



若松は無意識に話しているようだが、主将としてではなく、それは若松孝輔個人としての感情だということに保健医は興味深そうな表情をして聞いている。



「まぁ俺の事は主将だとも思ってくれちゃいないですし。無謀だとは思うんスけど…」


「それは分からないわよ?これから何が起こるかだって、そんなの決まってないんだから。」



一度下ろしていた手を若松はもう一度青峰の頭へと置き、わしゃわしゃと起こさない程度に撫でまわした。



「そろそろ行きます。青峰には…俺が来たこと、伏せといてもらって良いっスか?」


「…分かったわ、部活頑張って。」



失礼します、という声とともに扉の閉まった室内には若松が来る前と変わらない、寝息の混じった静かな空気が流れ始めた。







「んー…」


よっこらせと身体を起こし、青峰は首や肩を軽くならす。保健医と談笑していた桃井は目を覚ました青峰に気づいた。



「やっと起きたー。もう部活終わったよ?」


「よく寝たわ。」


「あんだけ寝ればね。…体調は?大丈夫?」


「おー。」



返事を聞くなり早々と帰り支度を始める桃井に押され青峰も自分の身支度を整える。



「…さつき、ちょっと俺の頭触ってみて。」



いきなり手をとめそう言いだす青峰に、不思議そうにしながらも桃井は手を伸ばした。



「違ェな…」


「どうかしたの?」



何やら悩む様子の青峰は荷物を抱えた姿勢のまま、その場から動かない。



「なぁ、センセイ。」


「何?」


「俺が寝てる間、さつき以外誰か来た?」


「…誰も来てないわよ。」



ふーん、と言いつつも青峰は納得しているようには見えない。



「大ちゃん?」


「…いや、何でもねェ。」



確かに誰かが自分に触れていたような感触が残っているのだが、夢だったのだろうか。先ほど桃井が触った時に感じた、彼女の手とは違うもっと堅くて男らしい―…



「すっげー良い気分だったんだけどなー…夢かよ。」



自分の頭を撫でる人物の顔もはっきりと覚えていない。でも何だか、もどかしい表情をしていたような気がする。何だかそれをあまり見ていたくなくて、青峰は目をつむった。



「…また寝たら会えっかな。」



しかし翌朝、誰かに撫でられていたような、あの心地のいい感覚は訪れなかった。