先日先輩達に相談し、片方は面白がっていたものの助言は貰うことができた。だけどあの青峰とまともに話し合いなんかができるのか。最近は口論になる前に自ら会話を切り上げるようにしていたのだが、自分の気がそう長くないのは重々承知している。そしてなにより、



最近の青峰の機嫌はすこぶる悪いのだ。おまけにまた部活をサボりがちになってきており今日もまだ体育館には現れない。黒子達のおかげで少しは心を入れ替えたんだと思ったんだが…



「やっぱ、このままじゃマズいよな。」



頬をパシンと叩き気合を入れ青色の髪が体育館に現れるのを待った。





「ちーっす。」



それから青峰が来たのは30分経った後で、待ってましたと言わんばかりに俺は近づく。



「テメェ、どういうつもりだ。」


「…は?何が?」



青峰の眉間に皺が寄った。早くも不機嫌モード突入である。



「最近部活来ねェだろうが。」



だんだんと苛立ちが沸き、久々に荒くなる自分の声に部員達や桃井は心配そうな表情でこちらの様子を見守っている。



「…アンタだって来ねーじゃん。」


「は?」



ふて腐れながらそう言う青峰の様子に俺の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。



「何言ってんだお前?俺は部活出てんだろ。」


「違ェよ。」



お互いかみ合っていない会話に更に苛立ちが募る。駄目だ、これじゃ話し合いにすらならないぞ。



「…いい、今日はやっぱ出ねー。」


「はっ!?ちょ、おい!待てって!」



聞こえているはずの静止の声も無視し、青峰は体育館を出ていく。本当は追いかけたいところだが、主将という立場のため他の部員を放ってそんな身勝手な事は出来ない。



「はぁー…。」



ため息をつき屈みこむと、様子を見ていた桃井が駆け寄ってきた。



「あの、主将。」


「あぁ、悪いな。練習再開だ。」



今は部活に集中、気を紛らわすなと自分に言い聞かせる。



「…青峰君の事、追いかけてあげてください。」


「え?いや、でも…」



眉を下げ少し困ったように笑いながら頼む桃井に言葉を濁す。



「主将、ここのところ青峰君の機嫌が悪いのは多分―…」




桃井の話しを聞き終えると止まっていた俺の足はすぐに動き出した。屋上にいるはずです、と後ろから声がかかる。



彼女の分析能力は長けている。だけど、本当にそうなのか。




"青峰君、主将が最近自分に構ってくれないから拗ねてるだけなんですよ。それにさっき『来ねェ』って言ったのも部活に出る出ないじゃなくて、若松主将が自分を迎えに来なくなったって意味だと思います。ほんと青峰君、素直じゃないから。"




ガチャリと屋上の扉を開けると青色が目に入る。


「青峰!」


「…んだよ。」



ずかずかと近づき仰向けで寝ている青峰の前に仁王立ちをした。半信半疑だが桃井の話しを思い出しながら問いかける。



「お前、最近俺が構わなくなったから機嫌悪ィのか?」



これは間違っていたら自意識過剰のとんだ爆笑もんだぞ。



「…は?何言って、」


「も、桃井から聞いた。」


「・・・。」



黙った青峰はそっぽを向き頭をガシガシと掻き始める。そんな様子を目の当たりにし桃井の言っていた事は本当だったのだと驚いた。



「俺の事うっとーしかったんじゃねェのかよ。」


「…最初はな。でも、アンタが最近俺にあんま口出ししなくなって、」



ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぎはじめる。



「あんなに俺に執着してたのに…俺が試合に負けたから飽きたのかよって、そう考えたらよく分かんねーけど苛々して。」



つまり、何だ。じゃあ部活をサボりがちになったのはあれか、俺に迎えに来させようとして?…誰だこのちょっと可愛らしい男は。今までの自分の知る青峰とは一致せず、知らない奴と話している気分だ。



「別に、飽きたとかじゃねェよ。」


「じゃあ何で。」


「WC終わってから練習も来るようになってたし、」


「…でもサボった日はアンタ探しに来てたじゃん。」



いや、行ってたけど。お前が素直に従った日なんかなかったじゃねェか。



「…自分に虚しくなったんだよ。」



青峰は言っている意味が分からないという表情で俺を見ている。



「お前がまたバスケを楽しいって思えたのは黒子と火神のおかげだろ?あいつらはお前を変えてくれた、けど俺は結局何も出来なかったって事だ。」


「確かに、…確かにまたバスケが楽しいって思うようになったのはアイツらが居たからだ。そこに間違いはねェ。」


「・・・。」


「けど、アンタが呼びに来たり突っかかってきたり、前は正直言ってウゼェって思ってたのに、今じゃそれがないと何かスッキリしなくて、」



そこまで喋ると一旦口を閉ざし、青峰はゆっくりと立ち上がり俺と向かい合った。



「こんな風になんの、今までの俺じゃ考えらんねェんだよ。だから、アンタは何も出来なかったって言ったけど…アンタだって俺を変えた一人だろ。」



これが良いふうに変わってんのかどうなのかは分かんねェけどよ。と真顔でそう言い切る青峰に、だんだんと自分の顔が熱くなっていくのが分かる。色白なだけにそれは更に分かりやすいらしく、俺の表情を見るなり青峰の頬も赤く染まっていく。



「んでアンタが赤くなってんだよ!」


「いや、なんか…そういうテメェも赤くなってんじゃねーか!」



お互い頬を染めて屋上でワーワーと言い合うこの光景は、傍から見たらきっと告白直後の喧嘩っぷるのように見えるのだろう。



「青峰。」


「何だよ。」


「…部活、行くぞ。」


「!…おう。」



ひっそりと隠れている別の気持ちに気づきまた波乱を呼んでしまうのはもう少し先の話。まぁ、今のところはしばらくこのままで。





おまけ


「めでたしめでたし、と。…ふぅ、ストーリーはこんなもんやな。」


「久々に部活に顔出すとか言うから一緒に来てみればこれか。」


「おー諏佐。実はな、」


「ちょ、今吉さん!何スかこれ!」


「何って…今までのお前と青峰のすれ違い期間の記録を文章化したものや。」


「はぁ!?」


「…今吉。」


「なぁ桜井ー、これにイラストとか付けられんか?もちろん若松と青峰の。」


「は、はい!やります!自分のカスな絵でホントすいませんっ!!」


「い、いらすと!?」


「とじ込んで出来上がり次第、校内の女子生徒に売りさばいて大儲けや。」



何だかんだ、桐皇学園バスケ部はいつも楽しく賑やかです。