雨が降る





本日の部活が終わり、何か腹に入れようとコンビニで買い物をした帰り。道端にしゃがみ込む青い頭を見つけた。暗がりのため表情に陰が見える。が、具合の悪そうではないその様子に、部活をサボったくせにこんなところで何やってんだ。と若松は不満げに顔を歪ませ少しずつ彼に近づいた。



そんな若松には気づかず、何かを見つめ続けるその視線の先を目で追うと、黒くて小さな塊が見えた。青峰はそれに向かってゆっくりと手を伸ばしたが触れる直前でぴたりと止まり、その手は宙をさまよっている。



「…猫?」



近づいた若松が言葉を漏らすと、肩を一度揺らし青峰は振り返った。道の端に横たわる黒い小さな猫は目をつむり、ぴくりとも動かない。



「多分、車に跳ねられたんだよな。」



猫に視線を戻した青峰はぽつりと零す。その声にはいつもの傲慢さどころか、何の色も感じられない。



「まだ、小せェのに。」



同じ調子で小さくそう吐くと、青峰は口を閉ざした。



互いに何も語らず時間が過ぎる。普段は馬鹿でかい声を発しているのに、こんな時には言葉にならない空気しか出てこないのだ。



「…明日、朝錬来いよ。」



単純な頭で考えて口から出た言葉は極めて単純なものだった。こんな事が言いたかったわけではないのに、と若松は眉間にシワを浮かべる。



青峰はゆっくりと立ち上がると、少し口角を上げて背中を向けた。



「気が向いたらな。」



そう言った青峰はいつも若松といがみ合い、暴君とまで呼ばれているいつもの姿には見えなかった。去っていくその後ろ姿を追いかける事も出来ずに見送ると、若松は子猫の前にしゃがみ込んだ。



一息つき、鞄から今日は使う事のなかったタオルを取り出す。



「今度は、もっと生きろよ。」



子猫の上に一枚の布が、ぱさりと落ちる。



空を覆い尽くす雲の僅かな隙間に、小さな星が見えた。