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「うわ、俺水族館とか久々なんだけど!」


「・・・。」



デート日和の快晴の下。入口に置かれた向かい合うイルカのアーチの前には長身の男性が二人。お世辞にも両者互いに目つきが良いとは言えず、カップル達が楽しそうに歩いている中、その空間は一際目立っていた。



「なぁ、やっぱこれ俺達浮いてねーか?」


「あ?何細けェこと気にしてんだよ。」



ガッと青峰に腕を捕まれて、若松はずるずるとゲートを通り中へと連れ込まれた。青峰が押し付けるように渡したチケットを確認した女性が『楽しんで、行ってらっしゃいませ。』と、ガラス越しに何とも含みのある笑みを浮かべていたことは見なかったことにした。



久々に来たという浮かれた言葉通り、館内を見て回る青峰のテンションは高かった。あれだ、これだとどこへ行ってもはしゃいでいたが、特に大きな海老のいる水槽の前では一際目を輝かせてガラスに張り付いていた。横に並んだ小さな男の子と一緒になって「すげえ!でかいザリガニだ!」と騒ぐ姿にコイツほんとにバカだ、とついつい噴き出してしまった。



今回の目玉のイルカショーでは大盛り上がりの中、二人してスゲースゲーと興奮し通しで、その後水族館のアイドル「アザラシのテッちゃん」と満面の笑みで記念撮影をした。現像された写真を見て青峰の気持ち悪い程全開の笑顔に若干顔が引き攣ったのはここだけの話。真ん中に移る無気力な顔のアザラシが誰かに似ているような気がしたが、それが誰だったか。その場で若松が思い出すことはなかった。



水槽のアーケードを見上げれば沢山の魚達が水の中を優雅に泳ぎ回っている。そこから繋がる大きな水槽。目の前に広がる神秘的な世界に若松は目を逸らすことができなかった。周りにはカップルばかりだったが、ちらりと横に立つ青峰に視線を流せば、彼もまた自由に泳ぐ海の生物達の様子に魅入っているようだった。



人々が行き交っているこの場所が、その瞬間だけ自分達二人きりの空間のように感じた。