本日は晴天なり





庭の木に止まっていた一匹の蝉。高い場所でミンミン鳴いているのが、開いた窓から聴こえてきた。まだ小さかった俺は、その声があと数日で止んでしまうなんて知らなかった。




「父さん、セミが…!」



ある日、毎朝耳を通り抜けていた蝉の声がぴたりと消えた。飛んで別の場所へと移動してしまったのかと慌てて庭へ飛び出してみれば、見上げた先にいたはずの個体は自分の足元に、音もなくぽつりと落っこちていた。



「あぁ。…この子はもう天国に行っちゃったんだね。」


「え、なんで!?ずっと元気に鳴いてたじゃん!昨日だって、」


「…大輝。蝉はね、一週間だけしか生きられないんだよ。」



仰向けにひっくり返る体は、少しだけ吹いた風にあっさり身を任せるように転がった。






「そん時さ、今じゃ考えらんねェくらいビービー泣いて。親父と一緒に庭の隅にセミの死骸埋めたんだ。」


さすがにもう泣かねーけどな、ガキじゃねーし。と、青峰は道路脇に転がる蝉の死骸を見つめながら呟いた。


「悲しいことばかりじゃないだろ?」


隣を歩く若松の手がぽすんっ、と青峰の頭へと置かれた。


「だってよ、お前が埋めた蝉が一週間懸命に生きたおかげで毎年新しい蝉に出会えてるんじゃねーか。」


見た目に似合わないくさい台詞に青峰の口からぶはっと笑いが零れた。何笑ってんだと、若松は唇を尖らせる。慰めのつもりであろう、予想の斜め上へと飛び出した言葉に、青峰は口元を緩ませるばかりだった。



「じゃあ来年は今まで出会ったヤツらのガキに出会えるってわけか。」


「そういうことだ。」



夏の終わり。外へ出ればどうしても見つけてしまう。



自分が生まれた日に死んでいく大好きな彼等を目にするのは、決して心地の良いものではなかったけれど。新しく宿る命があるのであれば、そんな今日も悪くないのかもしれない。







あとがき
青峰お誕生日おめでとう!!!!遅くなりましたが!ごめんなさい!しかも話中に「おめでとう」が出てこないっていう……良いんだ、この後二人はきっとハッピーライフを送るんだから。
ここまで読んでいただきありがとうございました!