球技大会の話




食欲の秋。
読書の秋。
芸術の秋。


秋といえば、それらしい代名詞がいくつか浮かぶが、その中でも青峰の通う桐皇学園のもっとも力をいれているのがこれだ。



『桐皇学園球技大会!!!』



―そう、スポーツの秋である。



ピーッと鳴る甲高い笛の音と共に、青峰の目の前を黒と白の球体が通り過ぎていく。次の枠で試合を控えているゆえサボらないようにと、早々と待機させられる。試合に出ないとこれを燃やすぞと、その日発売したばかりのマイちゃんのグラビア誌をクラスメイトがちらつかせてきたのはつい一週間のこと。意地汚いようで真っ正面からの揺さぶりに、彼らが誰を頼ったのかなんてすぐに分かった。



本校の球技大会は親睦を深めることに重きが置かれており形式はクラス対抗戦。サッカー、バスケ、バレー、3種目から選んで参加することが出来るが、部活動で所属しているものは選択肢外となる。これはレベルの差に考慮した一つの決められたルールである。


「お、いたいた!」


流れるように進む目の前の試合を追う青峰に、すっと影が被った。顔を上げればきらきらと太陽に反射する色素の薄い髪の毛と、ニッと笑う見慣れた顔がそこにあった。


「あー、若松サン。」


「んだよその気の抜けた返事は。」


ぺしんっと青峰の背中を軽く叩くと、若松はそのまま隣へ腰を下ろした。首に掛かるタオルは汗か水か、少し湿っている。


「アンタバレーだろ?試合終わったの?」


「おう。頑張ったんだけどなー、二回戦負けだ!」


身長はあるしスピードも人並み以上。若松自身もっと上までいけるんじゃないかと思っていたのだが、やはりチームメイトとの連携でのミスが目立ってしまった。別に個々が下手くそだったわけではなかったため日頃からの練習や信頼関係はどの競技でも同じなのだろうと気付かされた試合だった。


「まぁそういうワケで、暇な俺はここから応援してっから!」


「はぁ!?別にいらねーし。…あ!つーかクラスメイトに変な入れ知恵してんじゃねーよ!」



唇を尖らせ文句をわぁわぁとぶつける青峰に、珍しく若松からの反論が来ない。不思議に思って言葉を止めても若松は何も言わず、


「…何笑ってんだよ。」


「いや、別に?そうムキになんなって!クラスの奴と仲良く慣れる良い機会なんだしさ!」



青峰の眉がぴくりと反応した。だけど、それは決して機嫌が悪くなったからではない。


「確かにアドバイスはしてやったけど、そんなんなくたってアイツらお前のこと誘ってたと思うぞ?」


二年生になり、だいぶ憑き物の落ちた青峰に話し掛けてくる同級生も増えてきた。それでも奴の顔面の印象や照れ隠しが壁となるのか、今だに仲の良い友人は片手でも余裕で足りてしまうほど。そこにやってきた球技大会。桜井はバレーボールへと呼ばれてしまった。実は繊細な青峰のことだ、心の底では巧くやれるか不安もあったのだろう。



「お前だってちゃんとクラスの一員だろ?」



ほら。と若松が顔を向ける方へ視線をやれば、手招きをして声を上げるクラスメイト達。



「青峰ー!そろそろアップしとこうぜー!」



なかなか動かない青峰に早く早くと声がかかる。


「行ってこい!」


どんっと背中を押されて、ようやく踏み出せた一歩。そこから続く足取りは、なんだか軽い気がした。


「青峰ー!勝てよ!」


自分の名を呼ぶ一際大きな声援。青峰は口元を緩ませるとそれに答えるよう、拳を突き出した。







あとがき
twitterで企画された若青ワンドロトレーニングに参加させていただいたものを持ってきました。若青なのかなコレ…青若でもいけそうな……。。がっつり若松攻めを期待された方には申し訳ないです!ここまでお読み下さりありがとうございました(>_<)