お揃い記念日





立春が過ぎ春はもう訪れているというのに、冷たい風が身体に突き刺さる。


「あー…さっみい!!!」



何故こんな日に我らが桐皇バスケ部主将、若松孝輔が街中を歩いているのかというと、それはつい数10分前に遡る。今日は午後練のため本来なら部屋で課題やら掃除やらを進める予定だったが、一本の電話によってその予定はあっさりと変更されることとなった。


「ごめんなさい主将…買い出し頼まれてたのに…けほっ、」


「いや、体調悪いならしっかり休んでくれ。買い出しは俺が行くから大丈夫だ。」



電話の向こうで何度も謝る桃井に若松は気にするな、と柔らかい口調で声をかけた。彼女はいつもチームのために頑張ってくれている。いや、頑張りすぎているくらいだ。無理せず具合の悪い時くらいゆっくり休んでもらいたいたかった。



と、そんな事情があり、彼女の代わりに普段お世話になっているスポーツショップへと向かったわけなのだが…



「あーほんっと寒すぎんだけど!」

「何でお前がいるんだよ…!」



あろうことかこの青峰大輝が着いてきたのである。買い出しついでに一人のんびりと店を見て回ろうと思っていた若松にとって手間のかかる後輩の出現は、ぶっちゃけ大きな障壁だった。


「さつきがアンタ一人じゃ大変だから着いてけって。」



桃井の気遣う心はありがたく受けとっておこう。しかしそれは本当に気持ちだけであってほしかった。



「なーとっとと買い出し済ませちまおうぜー。」


ぐだぐだとしたいつも通りのやりとりを繰り返していれば、目的の店はもう目の前に。つーか買うもの何だっけ、なんてぼやきながら店内へ足を踏み入れる青峰に、若松は大きなため息をついた。



「あっれ、桐皇の若松さん!?」


リストを確認しつつ商品を手にしていると、軽めの声が自分の名を呼んだ。ぱっと振り返ればヘラリと笑う男が一人…いや、その後ろにある緑色も、すぐに若松の目に入った。



「高尾に緑間!?」


「お久しぶりっス!」


「どうも。」



ニコニコと笑う高尾とは反対に、緑間の表情は堅く見える。あまり自ら他校生に話し掛けるようなタイプには見えないし、高尾のように調子よくお喋りが弾む性格でもないのだろう。それにしても何故ここに?スポーツショップは秀徳の近くにもあったはずだが…そんな疑問を口にしようとした瞬間、ガッと肩に重みが加わった。



「なんか見慣れた頭があると思ったら、やっぱ緑間かよ。」


「青峰!」



店に入るなり好き勝手動き回りどこへ行ったのかと思えば。



「ふん。人を頭で判断するな。」


「目立つんだから仕方ねーだろ?つーか何でお前らここにいんだよ?」


「あーそれは、」


「っ高尾!、さっさとソレをレジに持っていくのだよ。」


緑間の視線の先を辿れば、高尾の手には二つのリストバンドが握られていた。深い緑色と黒色が目に入る。これは、もしかしなくても…若松の口からふっと笑いが漏れた。


「…何か?」


じっと緑間が若松を見据えた。端から見れば睨んでいるようにもとれるが、そうではない事を若松は核心していた。


「お揃いっていいよな!」

「っやっぱり!?良いっすよね!珍しくしんちゃんがオッケーしてくれて!」


「高尾……」


「げ。怒んなって〜!ほらレジいこうぜ!じゃあ、若松さん、青峰。また試合で!」



嵐のようにさって行った二人を見送り、青峰が横目で若松を見ると今だに口元をにやつかせ笑っていた。


「緑間照れてたな〜。アイツ見てっと和むわ。」



他校の後輩を思い優しく笑う若松に、なぜだか青峰は納得行かなかった。力任せに腕を引っ張り、店の奥へと進む。



「おい!もうそっちに用はねーよ!俺らも会計して…」


「うっせーな!俺はあんだよ!」



なんて横暴な。怒り半分、飽きれ半分の状態で連れてこられた先にあったのは、



「り、リストバンド…?」


青峰は先ほど二人が持って行った物とは別のメーカーの棚をガサガサと漁りはじめた。買おうと思っていて忘れてたのか、あるいは二人にあてられ欲しくなったのか。一応コーナーにいるからには品を手に取り見つつ、若松はそんなことを考えていた。



「おい!」


その声に顔を挙げれば目の前には飛んでくる物体が。慌ててキャッチしてよくよくみてみれば、若松に投げつけられたのは濃い青色のリストバンドだった。え、と困惑する若松に青峰はにやりと笑う。



「それ、アンタのな!」



こっちが俺の、と青峰は薄いライトグリーンのリストバンドを掲げた。あんまり似合わない、と言うのが正直な感想だった。そう、どちらかと言えば自分に放った青色の方が彼にはよく似合うだろう。



そんな若松の意見を聞き入れることなく青峰はレジへと向かっていく。別に青色は嫌いじゃないし、リストバンドも今使っている物は古くなってきていたから調度言いといえばそれまでだった。



「次の練習から付けろよ?」


「あ、あぁ。」



色違いのお揃い。やっぱりあの二人が羨ましかったのだろうか。ちょっとは少年らしいところもあるもんだ、なんて軽い気持ちでリストバンドを受けとった若松はまだ知らなかった。



翌日の部活でお揃いのリストバンドが即効バレて、何故か周りから生暖かい視線を送られること。さらに後々再開した高尾に目敏くソレを発見され、キセキを含む選手らに話が飛躍されて伝わり有らぬ誤解を生んでしまうこと。



桐皇学園バスケ部主将。我らが若松孝輔の頭を悩ませる、新たなやっかいごとが降り懸かろうとしていたのだった。









あとがき
一回消えて書き直しました…
ちょっと内容が変わってるような、変わってないような。
チャリアカ地雷の方がいましたらすみません。
リクエストありがとうございました〜!!