カタンっ、
小さな物音が聞こえ、青峰の意識はゆっくりと呼び起されていく。
「おう、起きたか。」
若松は手に持っていた鍋をテーブルへ置くと青峰の傍へ寄り、ぴたりと額に冷めたい手を押し当てた。
「熱もだいぶ下がったんじゃないか?今粥が出来たところだから体大丈夫そうなら食っとけ。」
青峰は、安心したように笑う若松の顔を眺めながらぼんやりと考える。確かに熱はもうない。眠る前は酷かった気怠さも今はもう感じない。ただ、
このどうしようもなく込み上げてくる、熱いものは何なのだろうか。
体調の悪い自分のために、若松が世話を焼いてくれたことが。どうしようもなく嬉しかった。
苦しいときも、辛い時も。いつも一人で過ごしてきた。放任主義の冷えきった家庭、その中で育った青峰にとって今ここにいる若松の存在は温か過ぎたのだ。
「ちょ、おまっ…!どうしたんだよ!?」
唐突にぼろぼろと涙を流し始めた青峰に若松は目を丸くし狼狽えた。
「っ…うー…」
「、」
若松の手が、そっと青峰へと伸びた。一瞬身体がびくりと反応したが、青峰は何も言うことなくそのまま顔を布団に埋めてしまう。
もっと頼ればいい。
もっと甘えてしまえばいい。
そんな願いを込めながら。青峰の涙が止まるまで、若松は少しだけ掛布団から覗く青色の頭を撫で続けた。
「なぁ、青峰。」
「んー?」
翌日。すっかりいつもの調子を取り戻した青峰に、朝のニュースを見つつ若松は問いかけた。昨日の礼だと作ってくれた青峰特製みそ汁は、具がでかいのが難点だったが湯気と共に上がる良い香りが若松の鼻をくすぐった。
「その、…うーん、あー…」
「なんだよ。」
言葉を選んでいるのか、先を言いよどむ若松に、青峰はさっさと言えよと視線を投げかける。
「俺が行くんでも、お前が来るんでも…どっちでも良いんだけどよ、」
「…何の話しだよ。」
「…だからっ、今回みたいに体調悪かったりとか、もし家に居づれェとかあったら……連絡寄こせ。」
「っ」
目線はテレビのまま、けれど青峰の食事を運ぶ手はぴたりと止まった。若松は動かない青峰を捉えるようにじっと見つめた。
「そん時は、俺が一緒にいてやる。」
今まで誰も踏み込んでこなかった。自分だけの暗くて小さな世界に、たった一人の男が入り込んだ。彼がこじ開けた隙間から、真っ暗闇な空間に細く光が差し込んだ。
自身の発言に今更照れているのか、若松はそっぽ向いて唸り声を上げている。そんな様子を横目で見ながら、青峰はふっと笑った。
「(ありがとな。)」
闇を照らしてくれる光は、自分にはとても眩しすぎた。
だけどその輝きを不快に感じたりなんてしなかった。
きっとそれはほかの誰でもなく、あなたが与えてくれたから。
あとがき
無事完結……応援して下さった方々、本当にありがとうございました!やっと、やっと書き終わった…!!!作色は「迷ったその先に」と似てしまったかなと思ったんですが、家族というカテゴリーを意識して寄せて書いてみました。ここまでお読みくださりありがとうございます。次回作もよろしくお願いします。