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青峰の言葉に、若松は顔をしかめた。家庭の事情に他人が首を突っ込むものではないが、少なくとも今の現状を放置して帰れるほど、若松は薄情な人間ではない。それに、



青峰が抱えていたものがバスケに関することばかりではないことが分かった。先ほどの母親とのやり取りから、この家庭が何の問題もない普通の家族だとは思えない。今まで知ることのなかった、若松の見ることの出来なかった一面が垣間見れたのだ。重なるストレスはどんなものか考えても計り知れない。今まで青峰に腹お立てているばかりだった若松は自分自身に情けなさを感じた。



「ふー……あ、もしもし?今日なんだけどさ、」



突然ポケットから携帯を取り出したかと思えば、若松はどこかへと電話を掛けはじめた。



「あぁ、後輩のところに泊まるから。詳しいことは後で話す。…うん、じゃあ。」


「え、」



状況から察するに話中の後輩とはおそらく自分のことだろう。ぽかん、とした表情で青峰は会話を終えた若松を見つめた。



「んな状態のお前残して帰れるわけねーだろうが。おら、とっとと家ん中入んぞ。」



その言葉と身体を支えてくれる手の平に、こんなに暖かさを感じたのは初めてだった。







「早く着替えて布団入っとけ。」


「ん。」



家に上がり込むなり指示をしだした若松に、素直に従う青峰は何とも珍しい。とりあえず冷凍庫にあった氷枕を頭の下に敷いてやると、よほど怠かったのか、青峰はすぐさまベッドにもぐりこんだ。



「あ、熱計んねーと。あと何か食って薬も…」


「ねェよ。」


「え?」


「体温計も薬も家にない。いつも寝てりゃ治るし。」



青峰はそう言い目を閉じると、ごろん。と身体を反転させ若松に背を向けた。