「なんだよ、嘘かよ〜!」
「ははっ!だって今日エイプリルフールじゃん!」
そんなクラスメイトのやり取りが黄瀬の耳に聞こえてきたのは、この昼休みに三年の教室へ行くべきかやめるべきか悩んでいる真っ最中だった。
ハッとし黒板をみると、そこには4月1日とはっきり書かれている。
「まさか…」
そうだ、今日はエイプリルフールではないか。国民的行事の一つ、嘘をついても良い日。今朝も黄瀬は姉に騙されたばかりだったというのに、何故もっと早く気付かなかったのか。
森山は嘘をついていたのだ。なかなか迫真の演技だったがそうと分かればこっちのもの。どうせ自分の焦った顔が見たかったのだろう。黄瀬は小さく笑い、席を立った。
「あれ、小堀センパイ?」
笠松達の教室へ向かう途中、黄瀬はばったりと小堀に出くわした。
「おぉ、笠松のところか?」
「はいっス!」
彼氏の話しが嘘だと分かり、理由の分からなかった不安も焦りも空の彼方へ飛ばした黄瀬は満面の笑みで答えた。しかし小堀は逆に何とも言い難い、浮かない顔をしている。
「お前、あの話聞いたんじゃないのか…?」
「え?…あー、笠松センパイの!あれ森山センパイの嘘っスよね!騙されないっスよ、今日はエイプリル、」
「黄瀬。」
小堀にしては珍しく、少し強めの声で黄瀬の言葉を遮った。
「あの、その話なんだけど、…嘘じゃないんだよ。」
「は、…え?何言ってんスか、小堀センパイまで…」
固まる黄瀬にまるで決定打とでも言うように小堀は携帯をスッと差し出した。画面に映るのはどうやら写メのようだが…
「ちょ、これ…!」
登校時の様子を撮ったものだろう。校門の横でバイクに跨る男と、その彼に今まで自分が着けていたであろうヘルメットを返している…笠松が。このワンショットだけで、笠松が男にバイクで送ってきてもらったことがすぐに分かった。
「森山が俺の携帯で勝手に撮っちゃって…」
眉を下げながら今朝のことを振り返っている小堀の言葉は、もう黄瀬には届かない。
「俺、きょーしつ戻るっス……」
黄瀬はおぼつかない足取りで、ふらふらと廊下を引き返した。
嘘じゃなかった。受けたショックの尋常じゃない大きさに自分自身が驚いてしまう。笠松は自分にとって尊敬するセンパイであり、その位置はほかの何にも変わることはない。そう思っていたはずなのに。
「これじゃあ、まるで…」
センパイに、恋してるみたいじゃないっスか。