慌ただしい作戦が終了し静かになった体育館付近を、ゆっくりと歩く者がいた。
「涼しいですねぇ。」
バスケットボール部監督原澤克徳である。
部活が終わった夕刻。熱気が冷めた校内をのんびりと散歩することを、原澤は小さな楽しみとしていた。虫の声や風の音を耳で感じながら、その日の部活の様子を振り返ったり試合に向けた選手たちの調整を考えたりするのだ。
「ニャーン」
まだ若い鳴き声とともに、伸びきっている雑草の間から三毛猫が顔を覗かせた。どうやら学校の敷地内に住み着いているらしく、散歩中によく出会うのだ。最初はどこから入り込んだのか、と眉を潜めていた原澤だったが、警戒もせずに自分の足元をうろついてくる猫にいつの間にか愛着が湧いてしまっていた。
「あぁ、今日はここに居たんですか。」
「ミーァ」
原澤に向けて鳴いたかと思えば猫はスッと身を翻し、茂みから何か布のようなものを加え、もう一度姿を現した。少し土で汚れたソレは原澤の足元へぽとりと落とされ、まるで"あげる"と言われているようだった。
「タオル…ですかね。これを私に?」
「ニー!」
猫は元気よく一声あげると、原澤の横をすり抜け足早に去ってしまった。
「猫からのプレゼントとはまた……ん?」
タオルの端に何か書かれている。いや、それ以前に近くでそれをよく見てみれば、タオルと呼ぶには素材や形が違うような…。
『若松孝輔』
黒のマジックではっきりと、その見慣れた文字が書かれているのはおそらくゴムの部分で。原澤は指で摘み上げると重なった布をゆっくり広げた。入口一つに出口が二つ。長さ的に短パンか……否、違う。これは、
「何故、彼の下着がここに?」
原澤が手にしたそれは数十分程前、レギュラーメンバー(主に青峰)が死にもの狂いで探していた、あの若松のRNTだったのだ。
「いくら汚れているとはいえ、届けた方が良いですよね。」
ちょうど原澤が寮の入り口へとやってきた時、若松が中から現れたのは偶然か。予備の下着を買いに行くつもりだったが若松だが、洗えば使えるという彼らしい結論でその買い物は中止になり……後からニヤけた顔でやってきた青峰のテンションが一気に崩れ落ちたのは、言うまでもない。
あとがき
リクエストで書いた事件簿のおまけになります。不憫峰……おいしいです(笑)この後さぞかし拗ねて若松サンを困らせることでしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました!次作もよろしくお願いします。