もし笠松センパイが、俺のお兄ちゃんだったら。
そんなことを、最近ふと感じるようになった。
俺が知らないところで、あの人はどんな表情をしてるんだろう?
家族とはどんな話しをしてるんだろう?
もっと早く出会っていれば、今までずっと一緒に過ごせていたら。
センパイと家族だったら、俺の知らないセンパイを知ることができたのに。
男前で、かっこよくて、女子となかなか話せないところがちょっと可愛くて。
たくさんシバかれるけど、それは俺のためで。
あんなに捻くれ者だった俺に、手を差し伸べてくれた。
想いを通じ合わせることができた。
なんだかぽかぽかと暖かくて、嬉しくて。
それがあんまり心地のいいものだから、どんどん俺は欲張りになっていく。
もっと褒めて。
もっと構って。
もっと一緒にいて。
もっと、俺を見て。
俺だけを。
ほかの誰よりも一番に。
「ゴホンっ、」
ふいに響いた一つの咳払いの音で、心ここに在らずだった俺の意識は現実へと引き戻された。
後ろを振り返ってみれば部室のドアに寄りかかる笠松センパイがいた。そうそう、一緒に帰る約束をしてたんだ。……にしても、
「笠松センパイ、なんか顔真っ赤っスよ?」
キッと睨むセンパイの瞳に、少しだけ肩が跳ねた。
「おっ、お前が意味分かんねェこと言ってっからだろうが!」
「へ。」
雑な手つきで髪を乱すと、センパイは大股でこちらへとやってきた。
「ポエマーかテメェは!全部丸聞こえなんだよ!!」
一瞬時間が止まったように錯覚したが、自分の顔がどんどん熱帯びていくのが分かる。
「声、出てたっスか?」
「おう。…ったく、くだらねェ事ばっかグルグル考えやがって。」
真正面に立ったかと思えば、センパイは椅子に座った俺に目線を合わせるように屈みこんだ。
「俺はお前と家族だったら良かったなんて思ったことはねェ。」
「っ、それは、」
「欲でも不安でも、ちゃんと何かあるなら俺に言え。我慢すんな。」
"お前一人で抱え込むと、すぐ検討違いの方向に突っ走っちまうんだからよ"
ため息交じりに零れた声に、じんわりと胸が熱くなった。
「センパイ、」
「おう。」
「俺、一番っスか?…ちゃんと、センパイの一番になれてる?」
ふんわりと、唇にやわらかい何かが触れて、小さなリップ音が耳を掠めた。
「あぁ、一番だ。」
「っ、」
「知らないことは、これから知っていけばいい。」
なんだ。
よく見ればあちこちに散りばめられているじゃないか。
俺だけ、
俺だけの特権が。
「笠松センパイ。」
「なんだよ?」
「愛してるっス!」
照れ隠しに飛んできた見事な蹴りに、小さな幸せを感じた。
あとがき
笠松センパイお誕生日おめでとうございます。小説の中では祝ってないけど、溢れんばかりの想いでいっぱいです…!最後に蹴られてる黄瀬ですが、Mではありません(笑)純粋に、あくまで純粋に喜んでいるんです(笑)伝えたいことが曖昧な文になってしまいましたが黄瀬語りの話をかけたので満足。
次回もどうぞよろしくお願いします。