絶倫Angel-X-

きと嫌いが動き出す



4国が形成されてから人間がそこで生活をするまで、色々と小さな問題はあったものの、なんとか“国”として機能するようにはなった。

大陸運営を始めてから100年で、早くもサンスペードは独自の防衛体制を整え、如何なる攻撃にも耐えうる強固な守りと凄まじい武力を確立。同盟国ダイヤムーンは、サンスペードからの武器や防具の依頼で生産力が著しく向上。それにより交易力も大幅に上がり、より一層“金回りの良さ”に拍車がかかった。一方レインハートは、サンスペードが国内で行っている競技大会…という名の武闘会に救護係として参加するよう求められており、毎年毎年それに参加することで、レインハート国民の“癒しの力”の熟練度が大幅に上がっている。
問題なのはクラブミストで、4国間の交流を一切持とうとせず、各国の王や女王との書簡のやり取りでさえ行わない為、益々孤立の一途を辿っていた。

そのまま200年目に突入すると、いよいよクラブミストの評判は3国の間で悪い物となり、それぞれの国民が口を揃えて「あそこは恐ろしい魔女の国」と囁き合った。これにはサンスペードの女王シャルロットも困り果て、定期的に各国で4国会議を行う事を提案したのだが、これに猛反対したのは同盟国ダイヤムーンの王ルース。レインハート・サンスペード・ダイヤムーンの3国での会議ならば了承するが、そこにクラブミストが入るのならば参加はしないと抗議。その後すぐにクラブミストから会議の提案書の返事が来たが、リゼット女王の考えもルースと同じく“3国会議なら我慢してやる”という類のもの。相変わらず二人は反りが合わないのか、お互い200年もの間言葉の一つも交わしていないくせに、こういう時は示し合わせたかのように同じ意見で投合する。
それにはさすがに怒りだしたシャルロットに昏々と説教され、ルースは渋々4国会議の開催を了承し、リゼットは凄まじく嫌そうな文面で“自国での会議の際はルースを殺菌消毒後、ぐるぐる巻きにする事”を条件に書面上で了承した。

300年目にはそれぞれの国にも色々事件が起こり、まずレインハートで史上最悪の食糧難が発生。同盟国であるクラブミストからの助けを期待したが、クラブミストは関与を拒否。仕方なくダイヤムーンに助けを求めれば、ルースは快く食糧を提供してくれ、挙句に多額の寄付までしてくれた。さすが経済大国ダイヤムーンだなと思っていると、その後にダイヤムーンにて謎の奇病が大発生。国民の大半が痒みを伴う発疹で昼夜問わず悶え苦しみ、ルースは病気の事ならレインハートにと救援要請。するとそこに何故かクラブミストが割り込んできて、レインハートのダイヤムーンへの救援を妨害。ダイヤムーンの同盟国であるサンスペードがクラブミストへ注意喚起すると、それを宣戦布告と受け取ったクラブミストがサンスペードを侵攻。魔法による超遠距離攻撃を受けたサンスペードは、反撃に出る為直ちに武装し迎撃態勢を整える。奇病で苦しむダイヤムーンをわざわざ経由する形でサンスペードへと侵攻しようとする、女王譲りの陰湿なクラブミスト軍に対し、ダイヤムーンの王ルースは得意の話術で交渉を持ち掛けダイヤムーンへの被害を押さえる作戦を決行。頻繁にレインハートやサンスペードとの交易を行ってきたダイヤムーンには、鎖国状態のクラブミストで手に入らない物が沢山ある。その中には魔法大国クラブミストの人間にこそ使いこなせるマジックアイテムも数多く存在し、それを餌に“閉鎖的で外の知識が皆無に等しい世間知らずなクラブミスト国民”を買収。ダイヤムーンが自分たちにとって利用価値のある国だと国民に知らしめれば、いくら独裁魔女ことリゼットが喚いたところで聞く耳は持たない。そもそも国民の前にすら姿を現さない“姿無き女王”のリゼットには、そうなってしまった自国の民に自分の言う事を聞かせる術などないわけで。ルースの一言であっさり進路を変更してしまったクラブミスト軍の面々に激怒したリゼットは、怒りに任せて自国の民へと呪いを掛ける。それこそまさにダイヤムーンで流行中の奇病と同じ症状の出る呪いだった為、ルースはここぞとばかりにクラブミストへの経済制裁を実行。それに対しリゼットが反発し魔法制裁が実行され、クラブミストとサンスペード間で行われていた戦争(仮)はクラブミストとダイヤムーン間で行われる羽目になった。

それから100年経過し、400年目に突入した4国間の仲は最悪だった。
未だクラブミストとダイヤムーンは長い戦争の真っ最中。呪いと資金断ちのある意味地味な戦争が延々と繰り広げられていた。
そしてレインハートはこの年に“永世中立国”になる事を宣言し、一切の戦争への関与を拒否。サンスペードは同盟国であるダイヤムーンがクラブミストとばかり交流(という名の戦争)をしている事に嫉妬心を募らせ一時的に交易を遮断。
この頃から、国の方向性が王や女王の私情に左右される傾向が見られるようになる。



そう。この頃、サンスペードの女王シャルロットは、ダイヤムーンの王ルースに恋心を抱いていたのだ。













「ねぇシャルロット」
「………。」

もう何度目かわからない4国会議。今回の開催国はサンスペードであった。4国中2国が戦争中であったとしても、この会議には絶対参加が義務付けられている。会議開催を了承した際、その旨の書類にもサインをさせられたリゼットとルースは、渋々顔を合わせて無言のバトルを繰り広げていた。
城内に設けられた会議室に四人は集まっており、円卓に着席して今回の議題(クラブミストの開国について)を話し合っていた三人(リゼットはそもそも話し合う気が無い)は、なかなか進展しない話し合いに区切りをつけて一旦休憩を挟む事にした。
そこでルースが発した呼び掛けに、シャルロットが無言で返したのが先程のくだり。

「聞いてる?」
「耳があるから聞こえているわ」
「じゃあ返事くらいしてよ」
「聞こえていたけど返事をする気はなかったの」
「なんで?」
「貴女と個人的に話をする気がないからよ」
「交易遮断解除して欲しいんだけど」
「いや」
「なんで?同盟国でしょ?」
「同盟国だって交易遮断くらいするわ。とにかく、まだ貴女のところと交易を再開する気はないから」

冷たく言い放たれてルースは唇を尖らせた。何が理由かわからない。何か問題があるなら言ってくれれば直すのに。ルースは理由を知りたくてしつこくシャルロットに詰め寄るが、シャルロットの方は意地でも理由を口にしないつもりらしく、迫ってくるルースを躱しながらジュリエッタの方に話を振った。

「ジュリエッタのところは最近どう?国政は順調?」
「えっ?!あっ、う…うん…、まぁね。テルアが、手伝ってくれてるし…」

急に話し掛けられたジュリエッタは、声を裏返しながらそう返答する。背後に控える従者でありパートナーの天使テルアを振り返れば、テルアの方もその視線に応えるように優しく微笑んでくれた。

「ジュリエッタはいいわね。あんな綺麗なおねーさんがお手伝いしてくれて」

ルースはテルアを上から下までじっくり観察すると、真顔で「是非とも組み敷かれてみたい」と言ってのける。その言葉に背後からペチッと頭を叩いた従者のジリオルは、自身の一番上の姉であるテルアと、その主ジュリエッタに深々と頭を下げて謝った。

「ごめんねテルア姉さん。それにジュリエッタ王。ルースったら本当に節操なくて困っちゃうよ」
「だってあたし若いんだもん。若いうちは色々やんなきゃ」
「君は年を取らないんだからずっと若いまんまでしょ?ずっと色々やる気なのかい?」
「もちろん」
「君って子はほんとにもう…」

ベシベシとルースの後頭部を叩きながら、ジリオルは呆れたように溜め息を吐く。そしてくるりと視線を別の場所にもっていくと、ジリオルの顔は一気に幼くなって子供っぽい声色に変化した。

「そうだ。ルースがお姉ちゃんのとこの女王様とくっつけば、私もお姉ちゃんも離れ離れにならなくて済むよね?リゼット女王って、よく見れば綺麗な顔してるじゃない(年の割に)。ね?お姉ちゃんもそう思わない?」
「急にアタシに話を振ってくんのやめろ。てか、お前だってうちの根暗女王とそっちのチビが犬猿の仲だって知ってるだろ?天変地異が起こったって、こいつらがくっつくなんてこと有り得ないね」

ジリオルから無茶苦茶な話を振られたのは双子の姉ベリオル。会議に参加する気のないリゼットを、クラブミストから無理矢理馬車に乗せて連れてきた為、色々疲れて隅のソファーで横になっていた。
大体、ルースは男女問わず誰でも気に入ればお近づきになりたがる性格だし、逆を言えば気に入らない相手と関係なんて絶対持たないわけで。そんなルースとリゼットがくっつくなんて、天界が崩壊したって有り得ない。創造主が突然裸で踊り出して「世界ぶっ壊そ」とか言い出すレベルで有り得ない。可能性があるとすれば、シャルロットの方が大いに有りえる。現にベリオルは、先程からリゼットに注がれている嫉妬の眼差しを苦笑いしながら気にしていた。

「おい戦の女王さんよ」
「!!、わ…私っ?!」
「アンタさっきからうちの根暗女王の事見てるけどさ、なに?気でもあんのか?」

気があるのはルースの方にだろうが、ベリオルは知らない振りをしてシャルロットにそう問い掛けた。するとシャルロットはブンブン頭を振ってそれを否定し、一瞬ちらっとルースを見た後すぐに視線を床に向けてしまった。

「んだよ。根暗女王じゃなかったか。女王と女王の夫婦だっていいと思ったんだけどな」
「む。私は反対だぞベリオル姉様」

茶化すベリオルに本気で意見してきたのは末娘のセシリアだった。セシリアは“我が女王様至上主義”の、ある意味シャルロット狂信者である。彼女的にシャルロットと夫婦にさせるなら、性格的に優しく、テルアのサポートも受けられるジュリエッタがいいらしい。
そんなセシリアとべリオルの掛け合いを聞きながら、シャルロットの視線が再びルースを盗み見れば、そのルースはまたしてもリゼットと熱く(激しく)見つめ合って(睨み合って)おり、今にもキスしそうなくらい顔を近づけて、二人の世界(戦い)に入り込んでいた。

「何なの小娘。いちいち私に喧嘩を売ってくるなんて随分と暇なのね。それとも、戦争で私に勝てないからって、今ここで直接戦いを挑もうとでも言うのかしら?」
「っは、ババァのくせに血気盛んね。血圧上がるとヤバイんじゃないの?血管切れて倒れるとかやめてよね。そんな勝利全然嬉しくないから」
「貴女こそ、ペラペラ喋るのは勝手だけれど、舌を噛まないように気を付けて頂戴?これ以上間抜けな顔を見せられたらいい加減吐きそうよ」
「言ってくれるじゃないクソババァ。アンタの眉間の皺もいい加減見飽きたからさ、ちょっとここらで面相変えてあげようか?勿論物理的に」
「貴女目を開けたまま寝言を言う癖でもあるの?貴女みたいな非力な小娘には、私のいかなる場所も変える事は出来ないわ。物理的に、なんてよく言えたものね。その“度胸”は褒めてあげるわ。凄いのねお嬢ちゃん?」
「はーーーなーーーせーーー」

上から頭を押さえつけられてもがくルースを鼻で笑いながら、リゼットは先程から感じる不快な視線に漸く振り返って眉を寄せる。視線の元であるシャルロットに小さく舌打ちをし、ルースの側頭部を思い切り叩くと、その勢いに乗せてシャルロットの元まで転がしてやった。

「いっ…た!!こンのクソババァ!!思いっきり叩いたわね?!」
「私に敵う筈ないことを、身を以て思い知ったでしょう?」

そう吐き捨てて席に戻れば、視界の端でシャルロットがルースに駆け寄り、側頭部を擦ってやっているのが見えて気分が悪くなった。
一人では何も出来ない弱い生き物。寄り添い合わなければ死んでしまう弱い生き物。そんなものと私は同じだなんて。

「………吐き気を催すわね」

心底不快な顔をして、リゼットは一人会議の書類を持ち上げて退屈そうに読み始める。
それを向かいから見つめていたジュリエッタは、どこか具合でも悪いのだろうかと内心心配しながらも、それを口に出す事が出来ずオロオロと不審な視線を送った為、余計リゼットの機嫌を損ねて一週間眠れなくなる呪いを掛けられ泣き喚いた。

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