The Frog in the Well | ナノ


リー・エヴァンズは悩んでいた。


The frog in the well knows nothing of the great ocean.


昨夜、どういうわけか泣きながら寝室に転がり込んできたナマエ・ミョウジは、混乱のためか意味不明なことを口走り、ベッドに潜り込むなり寝てしまった。レポートに手もつけず(これはいつものことだが)、夕食も食べずに(これは明らかに異常)。
以前も似たようなことがあった気がするが、友人のあまりの錯乱ぶりにリリーは悶々と眠れぬ夜を過ごしたのだった。

それなのに。

「コックス・オレンジピピン……タスカン……。ほほう、これはグラニー・スミスか」
「ナマエ、授業に遅れるわ」

ナマエは朝食の席で何事もなかったかのように、『ひとり利きリンゴ大会』を開催していた。
散々悩んだ挙げ句に、リリーはひとつの結論に達した。
――この子は、鶏だ。
『鶏は3歩歩けば前のことを忘れる』と聞いたことがあるが、まさに彼女は一晩眠っただけで、昨夜のことは、すっきりサッパリ忘れてしまったのだ。まあなんとも都合のよいミラクル脳である。
なかば無理矢理にそう完結し、リリーは魔法薬学の教室へ急ぐことにした。つまるところ、彼女も連日のレポート課題のせいで疲れていたのだった。

「あら、リーマスったら今日も顔色悪いわね」
「……リリー、もっとあっちに座らない?」
「でもリーマスたちから遠いわよ」
「うん。今日はいい」

おや、あながち鶏にもなりきれないみたい。ということは、深刻なことなのだろう。もしやリーマス・ルーピンと喧嘩でもしたのだろうか、とリリーの疲れた脳は回転し続ける。
教室の入り口からジェームズ・ポッターがこちらに手を振っているが、いつもならばそれに応えてやるはずのナマエはそちらを見ないよう、教科書を立ててバリアを張っている。リリーは引き続き考えをめぐらせながら、思わず手を振り返した。まったくの無意識だった。

「おい、ウソだろ?ねえ!リリーが僕に手を振ってる!」
「だから朝からそういう妄想は……あ、ほんとだ。やべえな、どうしよう」
「すごいや、ワオ………あー、僕、今日死ぬのかな?もしかして」


 

1/3

×
- ナノ -