The Frog in the Well | ナノ


「ひとつ聞いてもいいかなジェームズ」
「なんだいリーマス」
「これって見つかったら殺されること? 殺されないこと?」
「そんなこと僕の口からは答えられない」


The frog in the well knows nothing of the great ocean.


まったく、頭がどうかしていようだ。友とは、必ずしも安らぎをもたらしてくれる存在ではない。全ての友が必ずしも善友でありうるとは限らない――特に、悪戯ざかりの男子が友である場合には。

やはりリーマス・ルーピンのクジ運は悪かったらしい。

「……病み上がりに罰則はいやだ……」
「見つからなければオッケーだよ。でも今回は大漁とは云えないね。さては最近怠けてるな、フィルチのやつ」

整頓されていない汚れた書類から、薄気味悪い器具まで。不快なものなら何でもござれのキャビネットに手を突っ込んで、ジェームズ・ポッターはめぼしいものを探ってゆく。管理人室に忍び込んだのは初めてだったが、できることならもう二度と入りたくないとリーマスは思った。

「さて、そろそろ引き上げようか。シリウスの鬱憤晴らしもできただろうしね」

『没収品(※超デンジャー)』というラベルのついた引き出しを元に戻して、ジェームズが云った。戦利品はちゃっかりポケットにしまい込んだようだ。
シリウス・ブラックとピーター・ペティグリューは今頃、遠く離れた廊下で騒ぎを起こしているはずである。たぶん、廊下でクソ爆弾かなにかを爆発させて。

「そういえば彼、今朝は沈んでたよね」
「リーマス、あんな彼にも甘酸っぱい事情があるわけだよ。まあナマエは、ちょっとかわいそうだったけど」
「……ナマエに何かしたの?」

振り返ったジェームズは少しばかり奇妙な顔つきをしたが、すぐにいつものように笑ってかぶりを振った。

「ほら、シリウスにご執心な女の子が彼女にちょっと……ナーバスになるようなことをしたらしいんだけど。それでリリーの鉄槌をくらったんだよ。ナマエにも、シリウスのことは何とも思ってないって大声で公言されちゃってさ」
「シリウスって、ナマエのこと好きだったの?」
「さあね。よし、戻ろう」

意味深にニッコリと笑ってから、ジェームズは机の上に置いてある布をばさりと広げた。それは魚の鱗のようにテラテラと銀色に透けた、大きな一枚のマントだ。
ジェームズとそれをかぶり、廊下に出て扉を閉めると、リーマスはひどくそわそわしはじめた。この不思議なマントを被るのが2度目のせいなのか、友達とこんな風に悪戯をすることが今までなかったせいなのか。

未だに腕に残った生傷が、ざわざわと疼いている気がした。


 

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