きっとマダム・ポンフリーは、いつもよりずいぶんと遅れて医務室に現れたリーマス・ルーピンを不思議に思うことだろう。それから、彼の頬が妙に腫れていることについても。
The frog in the well knows nothing of the great ocean.
救急道具をベッドの上に転がし、ジェームズ・ポッターはあくびを噛み殺した。窓の外に広がるは何とも清々しい空。さえずる鳥の声。実にすてきな朝だ。
「……おい、そこでニヤニヤしてるバカ。消毒液」
「残念だけど、きみの頭につける薬はないよ」
そう云いながらも放った瓶が、シリウス・ブラックの額に直撃した。
「ちょ、おまえ!ここの、この角に当たったら痛いだろ!もう!ばか!!」
床の上で悶絶するシリウスをほぼ無視して、ジェームズは、もう何度目か分からないが彼にヒビを入れられたメガネを修復呪文で直していた。自分のベッドの隅にちんまりと座ったピーター・ペティグリューが、挙動不審なネズミのように二人をキョロキョロ見比べている。夜中から張り込んでいたせいで、3人の顔には疲労感が、ありありと貼りついていた。
「ピーター、そんなに心配しなくていいよ。そろそろ彼も戻って来るさ」
「うん、ねえ、”アレ”のことはリーマスに教える?」
「そうすべきだとは思うね」
「でもさ、でも……完成するかどうか分からないよ。それでも云うの?」
「こっちが無理に踏みこんだんだよ。急に遠慮するのもおかしいし、それに彼の協力も必要だ」
氷で頬を冷やしながら、シリウスは眉をひそめている。納得がいかないという表情とは違う。プライドの問題なのだ。躊躇するポイントが何とも彼らしいな、とジェームズは思った。
「さあさあ、重要なのはタイミングと、チームワークだぞ!どうやら僕は個性的なルームメイトには恵まれる星の下にいるみたいだし。あとはこの完璧な頭脳と、顔と、クィディッチの才能と……」
「もっかいメガネ叩き割るぞ」
「分かってるよ、もちろん打ち明けるべきだ。本質を知るには、まずこちらもそれを晒すのが礼儀ってものだろ。それから女の子を口説くときにも」
これは僕のおじいちゃんの受け売りなんだけど……とジェームズが語りだした瞬間、直したてのメガネに向かって消毒瓶が飛んでくることになる。