「……なにしてるの」
「きみの寝顔が可愛いから、起こそうと思ったのにうっかり見とれてたよ。おはようリーマス。今日もいい天気さ」
春風よりも爽やかな笑顔を見せたかと思えば、第一声がこれだ。彼は実はあのシリウス・ブラックよりもずっとタチが悪い人間だということを、リーマス・ルーピンは最近知ったのだ。
ちなみに外は雨である。
The frog in the well knows nothing of the great ocean.
「ワーオ。すっごく顔色悪い、土気色!」と、顔をつついてくる手を邪険に払う。成績優秀・スポーツ万能・それでいてホグワーツの問題児ジェームズ・ポッター。常日頃から彼の妙なテンションは鬱陶しかったが、特に朝っぱらのそれは拷問にも等しかった(はっきり云ってその笑顔、殺意を覚えるよジェームズ)。
「リーマス、ママレード取ってくれるかな。あ、やっぱりイチジクがいいや」
「ああ。ハイ」
「……と見せかけて、やっぱりママレードで!」
「(殺意を覚えるよ、ジェームズ)」
せっかくの休日に早くから叩き起こされ、彼と朝食をとらされている。あの廊下でかまをかけるようなことを云ってきたのだから、もう単刀直入に尋ねて来るものだとリーマスも覚悟をしていた。他2名の姿が見当たらないのは、弁の立つジェームズ単独で攻めようという作戦なのだろう。たしかに、彼と口論になったら勝てるかどうか自信はない(拳での喧嘩にも自信はないが)。
「そうそう、きみに一つ聞きたいことがあるんだけど。いいかな」
――そら、来たぞ。
諦めに近いものと、何も朝食のテーブルじゃなくても、という思いとで胃がギリギリと締め上げられるように痛みだす。逃げ出したい気持ちをおさえて、リーマスはぐっと顔を上げた。
「リーマス」
「なに」
「あのさ」
「うん」
「リリー・エヴァンズ」
「……うん?」
「最近僕について、なにか云ったりしてなかった?」
どうやら、彼は作戦を変えたらしい。