自分が情けない、とすっかり縮こまったナマエ・ミョウジを慰めようと、シリウス・ブラックはいつになく必死であった(むろん表面上はクールな自分を演出しているのだが)。例のタピオカ事件による責任をまだ感じていたし、何より、彼女のことが純粋に心配だったのだ。
その必死さゆえに、シリウスの言動は次第に空回りし始めていた。
「だからさ、何ならホラ、俺の胸で泣いても別に構やしないぜ?」
「シリウス気持ち悪い」
「きも……!おま、お前ほんと失礼なやつだなマジで、どこまでも!」
「だって引くもの。実際」
ねえ?とフクロウに向かって首を傾げるナマエを見て、シリウスはため息を漏らした。ただし安堵のそれであり、落胆のそれではない。ナマエは少なくとも軽口を叩けるほどには、元気になってきたということだ。
「……でも、まあ、よかったんじゃねえの。云いたいこと云えて」
「そう思う?」
「云わないで考え込むよりマシだろ。思っていることはな、素直に口にしたほうがいいぞ。ただでさえ意志の疎通ってのは難しいもんだ」
少し考えるように俯いてから、そうだね、とナマエは答えた。
彼女はやはり、リーマス・ルーピンの正体について、かなりいい場所まで気がついている。シリウスはそう確信した。二人はそのことで喧嘩になったのだろう、とも。
ふと何を知っているのか尋ねてみたくなったが、シリウスは思いとどまった。当事者抜きで大事な秘密を勝手に共有するなんて、絶対に良くないことだ。何より、この件について何か行動しようとすると、必ずあのメガネがしゃしゃり出てくるのだ。
「そうそう、逆にシリウスはもう少し頭で考えてからものを云ってほしいね」
ほら、やっぱり出た。
「……ジェームズ、お前いつからいた?」
「シリウスが『超気持ち悪い、今すぐ死んで』って云われたとこ」
「そこまで云われてねえよ!」
おそらく透明マントに包まれて話を聞いていたのだろう。彼のローブのポケットが不自然に膨れている。なんて悪趣味なやつ、絶対わざとだ、タイミングを窺っていたのだとシリウスは思った。
そうして、早くあの地図を完成させなければ、と心に決めた。