キリキリキリ、と胃のあたりが苦しい。昼食もろくに食べられないまま、リーマス・ルーピンは図書館へ向かっていた。何だっていい、食べ物の代わりに空っぽの胃に詰込めるものさえあるのなら。
The frog in the well knows nothing of the great ocean.
「マダム・ピンスに怒鳴られても知らないわよ。図書館の本は日除けじゃありませんって」
窓辺にある机で突っ伏していると、急に陽光が降り注いだ。誰かが屋根を剥がしてしまったのだ。半分だけ読んで、飽きた歴史か何かの本という屋根を。
頭を机にくっつけたままで、リーマスはもごもごと嘆いた。頬に日差しが刺さって痛い。
「……リリー、それ戻して。眩しい」
「お昼寝なら外でしたら?いいお天気だわ」
そういう気分じゃない、と光から顔を背けるとリリー・エヴァンズが呆れたように笑い声を上げた。「寝起きの悪い小さな子みたいね」と云う。鳶色の髪が貼りついた額を上げてはみたけれど、反論なんてしようもないことにリーマスは気が付いた。
――そうそう、まさにその通り。僕は小さな子供。お腹をすかせた貧しい子供。
「ねえ、喧嘩したんだけど、僕……ナマエと」
「知ってるわよ」
「彼女、そのことで何か云ってた?」
「何も」
取り上げた本をペラペラと捲りながら平然と答えるリリーを見て、なぜだか分からないが、リーマスは猛烈に腹が立ってきた。
リリーはきっと知らない。ナマエ・ミョウジが喧嘩の内容まで彼女に話すわけがない。保証はないが自信ならあった。だからこそ、今は何も知らないリリーと話すのは、余計に後ろめたい思いがするのだ。隠れる場所を探さなくては、日を遮らなくては。こんなに明るい場所で泣くのだけは、あまりにみじめで嫌だとリーマスは思った。
自分がひどく情けなかった。