気のせいだと思っていたが、どうやらナマエ・ミョウジは本当に、リーマス・ルーピンについての”何か”に気づいたらしい。
それでも、恐らく人狼だということまではまだ知らないだろうな、とシリウス・ブラックは漠然と、だが間違いなくそう思った。
「なるほどね。そっちも戦争勃発ってわけか」
「そっちもって?」
「俺たちもこの前やったんだよ」
結構ハデなやつだったぜ、と付け加えると、ナマエはようやく相好を崩した。
――ああ良かった。シリウスはほっとした。泣きそうな顔をしてフクロウに「ブタと呼べ」と口走る彼女を見たときは、正直こっちが泣くかと思ったのだ。
「分からんでもないけどな。たとえばお前だってさ、エヴァンズに大事なことを打ち明けるのと、ジェームズに打ち明けるのじゃ違うだろ?」
「それは、距離の問題ってこと?それとも性別の?」
「そりゃ両方あるだろうけど……そうだな、まあここでは、距離のほう、かな」
「やっぱりわたしはブタってことなのね……」
「いや、そうじゃなくて(噛み合わねえー)」
関係というのは、要はバランスだ。遠近どちらが過ぎても、良好な距離は築けない。意識しすぎても、しすぎなくてもいけない。甘過ぎても辛過ぎてもだめなのだ。進みたいだけマスをつめるときもあれば、長く待っていなければならないときもある。
他人なんて知らない、そう云ってしまえば楽なのに。人間というものはつくづく不思議である。
「リーマスに、云いたいことは云ったんだろ?」
「うん。云いすぎたけど」
「いいんだよ、それでお前の方はもうストップする。あとは、リーマスの方から歩いてくるのを待つ。それがバランス。待ってもどうしても来ないなら、大声で叫んで呼べばいい」
「……呼んでもだめだったら?」
「そうだな、そのときはロープでもぶん投げて引っ張るか。意外と荒っぽい方法がうまくいく場合もある」
『荒療治の方が、うまくいけば一気に解決できる』というのは、ジェームズ・ポッターの持論だったか。ハイリスク・ハイリターンというやつが、あの男は大好きなのだ。どうやら親友をやっているうちに、考え方まで染みてきたみたいだ。シリウスは反対側を向いて笑いを噛み殺した。
バランスは大事だと口では云うが、思い返せば今まで、荒療治の方ばかりを使ってきたような気がしたからだ。
14. Squeezed Orange