「僕らが想像していたよりも難しい問題だよ」とジェームズ・ポッターは神妙に切り出した。顔にいつもの穏やかさがない。
少なくとも、ピーター・ペティグリューには、その時点ですでに飲み込めなかった。
「えっと……それって、やっぱり本当だったってこと?」
シリウス・ブラックの表情からも、いつもの悪戯っ子のような輝きが消えている。部屋の空気が鉱石のように、カチンと固く重たい。
「自力で調べうる限りはね。当然、閲覧禁止の棚もチェック済み」
ジェームズが頷いた。彼がきっぱりとそう云うと、ピーターにはそれが信実なのだと疑えないのだ。もしもジェームズが「明日は木星が落ちてくる」と云ったなら、たとえそれが冗談だと分かっていても、彼は不安で眠れないことだろう。
シリウスは舌打ちをして、そっぽをむいた。
「まだ分かんねえよ。だとしても、可能性が高いってだけの話だろ?」
「もちろん。でも僕にはそれ以外に思い当たらないし、それに……」
とジェームズは言葉を濁した。”とある人物”から送られてきた手紙が彼のポケットに入っていたのだが、それを今ここで出すべきかどうか迷った――そして、彼は出さないことにした。
「もしも事実だとしても、僕は彼を拒絶する気も黙殺する気もさらさらない」
シリウスは、今度は短く唸って転がった。
「それどころか、これは一つの幸運だって思うよ。だっておもしろいじゃない、僕らはすごい確率でルームメイトになった4人だ。デモクリトスは『この世界にあるものすべては、偶然と必然が生んだ果実だ』と云った。この世は偶然と必然のバランス。そして僕は間違いなく、これは必然だと思うんだな。出会うべくして出会ったのさ。僕がリリー・エヴァンズと運命的に出会ったように」
「……ピーター。こいつどうしよう」
そんなにすがるような目で見られても困るよ、シリウス。ピーターはおずおずと顔を上げた。
「さて。乗るか?」
腕を組んでいたジェームズが掌を出すと、シリウスは苛つきながらも無言でそれをパシリと叩いた。少し痛そうだった。
「僕も、驚いたけど。でも、リーマスは好きだよ」
すこし怖いけど、と小さく云って、ピーターも左手を伸ばした。その言葉に偽りはない。リーマス・ルーピンのことは好きだ。どうにかできるという自信も確証もないけれど、自分にはこの二人がついているのだからと思えば、うまくいかないはずはないのだ。
「オーケー。理由としては十分過ぎるくらいだよ」
ジェームズは今日初めて、不敵に微笑んだ。
5. Brown Study