何が起きたって知るもんか、という飄々とした部分はときにクールだが、大概はイラッとさせられることの方が多い。
「わかったよ。今度から、上下左右の指示しか出さないよ」
「俺は初期のファミコンか」
このメガネをかけた親友は頭がいいのかバカなのか、天才と何とかは紙一重だというから、きっとこいつもそのクチなのだろうとシリウス・ブラックは思った。
視線を右に移せば、明らかに不快感を丸出しにしたナマエ・ミョウジ、臀部を押さえて睨んでいる。ちょっと怖かった。
「……えーと、ごめんなナマエ。その、尻が」
「お尻のことはもういいの!」
ほんの少し顔を赤くして、ナマエは声を荒げた。だったら一体どこが痛いのか、それとも他のことで怒っているのか。何か彼女の気分を害することをしただろうか、俺か、それとも、ジェームズが?
シリウスがぐるぐると過去の悪行に思考を巡らせていると、突然彼女が「ハイ!」と右手を挙げて、こちらをまっすぐ見据えた。ほぼ無表情でだ。
「わたくし、ナマエ・ミョウジはあなたたちのせいで、本日120分もの間を床板に喰われたままで過ごさなければなりませんでした。心優しい少年が通りすがらなければ、どうなっていたことか。あまつさえ夕食を、それも好物のラザニアを胃袋におさめ損ねるところだったのです……なんということでしょう。更にわたくしは、さきほど夕食の席で、驚愕の事実を耳に入れたのであります!」
え、なにコイツ。なんで突然、語り部調になってんの。
どうする、どうする俺。パニクれば負けだとシリウスは思った。
「……果たして、その驚愕の事実とは、一体!!」
「ジェームズ、お前も乗るな」
「なんと、件の”落とし穴”は、あの心優しい少年、セブルス・スネイプを標的にしたものだったのです。ちなみにこの事実は、情報提供者のR・Lさんが勇気を振り絞って告発してくれたため、明るみに出たものであります。非常に痛ましいことです。彼が一体、何をしたというのでしょう。単に髪の毛がベタっとしていて、常に薬品臭を漂わせ、自分の所属する寮以外……ことさらグリフィンドールの人間とすれちがうと舌打ちをしたり、ひどい時にはこっそり呪ったりするものの、彼はおおむね善良な少年なのです」
「説明がすでに善良さに欠けてねえ?」
つまりは何だ、とシリウスは考えた。あのいけすかないセブルス・スネイプのために、こいつは文句を云いに来たというわけか。なんだって彼女がそんなことをする必要があるのか、理解できない。お前は奴のママか何かか?
シリウスが混乱の淵に何かを云いかけるのとほぼ同時に、背後から悲鳴ともとれる怒声が響いた。
3. Conversation of Yellow