「それで要するに、やっぱり俺は、かつがれたわけだよね」
アーサーの弟――アルフレッドは何度もそう繰り返した。そのたび酒で緩やかになっているアーサーが「でかくなったなあ」などと云って頭を撫でまわすので、彼の前髪は今や、トウモロコシの髭のようだ。
「……おまえ眼鏡なんかかけてたっけ?」
「うるさいよ、酔っ払い!気持ち悪いにもほどがあるんだぞ!」
恐ろしく青い色の飲み物をかきまわしながら、アルフレッドは兄の手から身をかわした。と云っても、整然と並んだスツール上でのことだ。大した抵抗にもならない。
流行の音楽と、ろくでもない会話で賑わう大衆のバーでは、そんなじゃれ合いすら喧噪の一部である。初老のバーテンがひとり、微笑ましい目を向けている。
「大体さ、女の子だなんて云わなかったじゃないか。どうせネチネチした陰湿ストーカー行為が原因で、逃げられちゃったんだ。弁護士になったら、まず最初にきみを訴えることにするよ」
テーブルのへこみ部分に掌を埋めながら、アーサーは鼻を鳴らした。
「ばか、そこに純粋な愛はあるんだよ。俺たちゃ友達だぜ?」
「……どうだかね。きみの愛って愚直で、えらく重たいからなあ」
アーサーが、泣き腫らしたような目でアルフレッドを見上げた。ゆらゆらと焦点の振れる、その瞳の色だけはひどく澄んだ緑色をして、このアルコール臭い世界を映し込んでいる。
とてもいい気分だった。
「アルフレッド。おまえ俺のこと大好きだな」
「Screw you, I'm going home!(くたばれ、俺もう帰る!)」
(there's no between)
夢見がちで電波で救いようのない話でした
11.4.16